法月綸太郎 ◈ 作家のおすすめどんでん返し 13
1話4ページ、2000字で世界が反転するショートストーリーのアンソロジー『超短編! 大どんでん返し』が売れています。執筆陣が、大ヒットを記念して、どんでん返しを楽しめる映画やアニメ、テレビドラマ、実話怪談など、さまざまな作品を紹介してくださいました! ぜひチェックしてみてください。
作家のおすすめどんでん返し 13
フィニッシング・ストローク(最後の一撃)のお手本
法月綸太郎
「どんでん返し」に欠かせないものといえば、やはりフィニッシング・ストローク――最後の一行で物語をひっくり返すのが一番の妙味でしょう。おすすめ作品を挙げるなら、テリー・ビッスンの「マックたち」(中村融訳)。文庫本で20ページ足らずの短編ですが、ラストの一行(正確には一語)できれいに落ちる。「?」→「!」となるサプライズと納得感のコンビネーションが絶妙で、完璧なショートストーリーだと思います。
ビッスンは「現代のホラ話」を得意とするアメリカのSF作家。1999年に発表された「マックたち」はマイルストーン的な風格を備えた傑作ですが、もちろん「どんでん返し」の鮮やかさだけが売りではありません。オクラホマシティの連邦政府ビルが爆破され、168名が死亡した1995年のテロ事件を下敷きにした社会派の諷刺SFで、被害者の権利と遺族の感情を尊重するため、爆破犯ティモシー・マクベイのクローン(=マックたち)を遺族に配付、好きなように「処分」させてから5年後、という物騒な設定になっています。面白いのはインタビュー形式の語りで、被害者遺族と関係者の回答を数珠つなぎにした構成から、「合法的決着」にまつわるグロテスクな顛末が浮き彫りになっていく(クローン培養施設の責任者が漏らす「パンドラの箱をあけたんだと思いました」という台詞が象徴的)。ラディカルな思考実験を通して「法と正義」の限界状況を問うているので、ミステリー読者にもおすすめしたい短編です。
「マックたち」が収録されているのは山岸真編『90年代SF傑作選[下]』(ハヤカワ文庫SF)、テリー・ビッスン『平ら山を越えて(奇想コレクション)』(河出書房新社)――ただし現在はいずれも新刊では購入できないようで、手軽に読めないのがネックなのですが、図書館で探すなり何なりしてぜひ見つけてください。苦労して探すだけの価値はあります。
法月綸太郎(のりづき・りんたろう)
1964年島根県松江市生まれ。京都大学法学部卒業。88年『密閉教室』でデビュー。2002年「都市伝説パズル」で第55回日本推理作家協会賞(短編部門)、05年『生首に聞いてみろ』で第5回本格ミステリ大賞を受賞。『一の悲劇』『キングを探せ』『ノックス・マシン』『挑戦者たち』『赤い部屋異聞』など著書多数。
『超短編! 大どんでん返し』
編/小学館文庫編集部