「推してけ! 推してけ!」第8回 ◆『超短編! 大どんでん返し』(小学館文庫編集部・編)

評者・竹本健治 
(作家)

この作家博覧会を見逃す手はない


 乾くるみ、蘇部健一、似鳥鶏、米澤穂信、日明恩、田丸雅智、辻真先、井上真偽、東川篤哉、葉真中顕、法月綸太郎、呉勝浩、翔田寛、下村敦史、上田早夕里、白井智之、西澤保彦、恩田陸、深緑野分、大山誠一郎、青崎有吾、青柳碧人、伽古屋圭市、柳広司、北村薫、夏川草介、乙一、門井慶喜、曽根圭介、長岡弘樹……と、まず30名の執筆者の名前を並べることが何より最大の宣伝材料だろう。

 知らない名前もいっぱいある? 少なくとも、ここに並んだ作家全員の作品を読んだことのある読者はほとんどいないはずだよね。だが、錚々たるベテラン、ピチピチした新人とりまぜて、いずれも手練れの曲者ぞろいであるのは間違いない。この面々に、2000字──すなわち原稿用紙5枚の掌編で、「どんでん返し」をお題に競作させるという面白企画。これまであっても不思議はなさそうに思えるが、しかし実際はなかなか無謀な試みだ。

 だって、考えてもみてほしい。そんな制約された短い枚数で、ともかく読者を話に引きこみ、誘導しながらもひそかにその裏で仕掛けを組みこみ、最後に読者をあっと言わせるというのがどれほど至難の業であることか。その意味で、そんな企画を振られて、よしやってやろうと怯まず挑んだ作家さんたちにまず拍手を送りたい。

 結果、それぞれの作風や技巧もさることながら、どんでん返しの意味あいも様ざまで、なかには読み終わったあともしばらく何のことか分からず、考えこまなければならないようなものもある。そんなバラエティも楽しく、また、えっ、この人がこんなものを書くのという驚きもあるだろう。

 ところで僕は佐賀ミステリファンクラブというのに参加していて、つい先日の読書会でこの『超短編! 大どんでん返し』が課題本となったのだが、いろんな角度から議論百出で、ああでもない、こうでもないと、おおいに盛りあがった。そもそもどの作品が面白かったかも人によってけっこうまちまちだったのだが、そのいっぽうで、最大の問題作は西澤保彦「ちゃんと聞いてる?」で一致したことは報告しておいていいだろうか。

 ともあれ、こうしたアンソロジーのいちばんの愉しみは、それまで読んだことのなかった、あるいは存在も知らなかった作家にふれられることだ。ましてこれだけの数の作家がずらりとそろい、一話を数分で読める本書は最適の作家カタログであり、博覧会である。あなたもきっと新たに気になり、ほかのものも読んでみたいと思う作家が見つかることだろう。実際、僕自身もそうだったものね。

 さらにもうひとつ言えば、ただ読んで楽しみたいという読者だけでなく、自分も小説を書きたい、できることなら作家になりたいと思っている人たちにより強くお薦めしたい。どんでん返しというのは小説の必須要素ではないにしろ、集約された技巧の分かりやすい一形態なので、その30もの実例が陳列された本書は、小説の書き方の教科書としてうってつけと思うからだ。

 そしてこれは僕の持論なのだけれども、人が作家になりたいという気持ちを抱く第一歩には、ぞっこん偏愛できる作家や作品を見つけること以上の動機づけはなく、また逆にそこが出発点であってほしいとも思っている。その意味からも、30名という数を並べたこの本は、そうした「自分にとっての偏愛作家」との出遭いのきっかけになりやすいのではないだろうか。

 などと、ちょっとばかり別方向に力んでしまったが、何はともあれ、まずは軽い気持ちで作家たちの苦心と手練手管を鵜の目鷹の目で楽しんでほしい。いやもうほんと、面白いから。

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超短編!大どんでん返し

『超短編! 大どんでん返し』
編/小学館文庫編集部


竹本健治(たけもと・けんじ)
1954年生まれ。77年、大学在学中に雑誌「幻影城」で『匣の中の失楽』を連載し、作家デビュー。2017年、『涙香迷宮』で第17回本格ミステリ大賞を受賞する。『ウロボロスの偽書』『閉じ箱』『闇のなかの赤い馬』『狐火の辻』『これはミステリではない』など著書多数。

〈「STORY BOX」2021年7月号掲載〉

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