映像クリエーターの制作ノート 「君の膵臓を食べたい」 臼井 央さん
本のタイトルに、一目見たときから惹かれました。企画を考える際に僕が大切にしているのは作品のタイトルです。作品との出会いは、タイトルとの出会いなんです。『君の膵臓をたべたい』という原作小説の装丁とタイトルには、「何かあるな」と感じさせるものがありました。
読んでみて、小説ならではの読者の想像力に訴え掛ける面白さがありました。「真実か挑戦か」といったゲームでしか本音が語れない、若者たちの心情が巧みに描かれているのも魅力です。若い世代に突き刺さる映画になるなと思いました。
刊行されて、すぐに原作者の住野よるさんにお会いしました。最初の食事会では具体的な映画の話はしませんでしたが、「主人公たちは、どんな大人になるんでしょうね」ということを住野さんと話しました。映画には原作にはない「僕」の12年後の姿が描かれますが、これはそのときの会話から生まれたアイデアです。
大人になった「僕」に会ってみたいという発想から、東宝の過去の成功作『世界の中心で、愛をさけぶ』を大ヒットに導いた博報堂の春名慶プロデューサーに参加してもらうことにしました。
月川翔監督にも加わってもらい、住野さんとはプロットや脚本について打ち合わせを重ねましたが、とてもいいコミュニケーションがとれたと思います。住野さんが大切にしていたのは「これはラブストーリーではない」ということでした。膵臓の病気を患っている桜良と秘密を共有することになる「僕」とは恋とも愛とも呼べない関係であって、だからこそ「君の膵臓をたべたい」という台詞につながります。映画でも2人はキスすることも、「好き」と告白することもしません。恋愛映画と宣伝で謳っていないのはそのためです。
僕が手掛けた『岳 ガク』や『宇宙兄弟』で人間味溢れた役に取り組んでくれた小栗旬さんに、「僕」の12年後を演じてもらうことにしました。小栗さんはすでに原作を読んでいて、自分が演じる役など無いと思って驚いていましたが、映画版の未来を描く脚色に賛同し、快諾してくれました。
主人公となる高校時代の「僕」と桜良の役には、まだ何色にも染まっていない若手俳優を起用したいと思い、オーディションで北村匠海さんを、また実写ドラマ『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(フジテレビ系)で薄幸の美少女めんまを好演した浜辺美波さんをキャスティングしました。主人公たちと年齢が近い10代の2人は、人間の生死に直面する難しい役にぴったりと寄り添ってくれたと思います。
*原作の面白さに、新しさを掛ける
東宝の映画調整室という部署にいることから、少女コミック原作ものから、三池崇史監督の『悪の教典』まで幅広い作品を手掛けてきました。僕自身は『マリと子犬の物語』や『奇跡のリンゴ』といった家族向けのヒューマンドラマが大好きなんですが、なかなか同じような作品ばかりは作れません(笑)。若いプロデューサーが「臼井さん、これはうちで映画化すべきです」と熱心に持ち掛けてきた原作は読むようにしています。今回の作品も『悪の教典』もそうして生まれた映画。僕ひとりの力では映画はできません。
『君の名は。』の川村元気、『シン・ゴジラ』の佐藤善弘とは、東宝の同期です。2人とは映画の好みもプロデューサーとしてのタイプもまったく異なるので、それぞれに大ヒットを飛ばし、多少は嫉妬しながらも、素直に拍手を送れる仲です。もしライバル意識を持っていたら、仕事がやりにくくてしょうがないでしょうね(笑)。
企画を立てる際は、・新しさ・をどう打ち出すかを意識しています。『僕等がいた』の場合だと、それまで前後編ものはなかった恋愛映画としては初の試みでした。『悪の教典』は『海猿』でたくさんの命を救った伊藤英明さんが殺人鬼を演じる斬新さがありました。原作の面白さに新しさを掛けることで、より多くの人に興味を持ってもらえるんじゃないでしょうか。
(構成/長野辰次)