物語のつくりかた 第18回 君塚良一さん(脚本家)

君塚良一さん 撮影/隼田大輔

『ずっとあなたが好きだった』や『踊る大捜査線』など、数々の大ヒットドラマを手掛けてきた脚本家の君塚良一さん。その最新作となるのは、フジテレビ開局60周年特別企画、『教場』だ。本誌(「STORY BOX」)の人気連載作品を君塚さんはどのように解釈し、そして表現したのか? これまでのドラマ作りの作法と合わせて、その創作観に迫ろう。

 あまり知られていないことですが、僕の本当のデビュー作は実は、『太陽にほえろ!』なんです。大学在学中に同シリーズの脚本を募集するコンクールがあり、これに応募したものが2本ほど採用されたのがきっかけです。もっとも、実際にはプロの方の大幅な手直しが入っていますから、僕が書いたセリフやト書きはほとんど残っていませんでした。まだまだ現場で通用するものではなかったのだなとショックを受けましたけど、今にして思えばこれは業界の洗礼のようなものだったのでしょうね。

 とはいえ一応デビューはしたわけですから、大学卒業後、そのまま脚本を書き続ける道もありました。でも、経験が足りないせいか、新しい作品を書こうとしてもまるで筆が進みません。そんなある日、ひょんなご縁から萩本欽一さんが、「うちでお笑いの勉強をしないか?」と声をかけてくれたのです。

 しかし、自分が目指すのはあくまでドラマでしたから、この誘いをお断りしようとしたところ、萩本さんがこう言ったんです。

「そうか、君は目指す頂上がはっきりと決まっているんだな。だったらなおさら頂上までの道程は、真っ直ぐ歩かず、くねくね歩きなさい。そして、途中でいろんな景色を見て勉強するといい」

 この言葉に衝撃を受け、萩本さんが持つカリスマ性のようなものにすっかり心酔してしまった僕は、バラエティ番組の放送作家として修業に励むことになりました。実際、そこで学んだ笑いの要素は、後に『踊る大捜査線』など多くの作品に生きることになるのですから、あらためて萩本さんの言葉が身に沁みますね。

 放送作家からドラマの脚本家へと転じることになったのは、バラエティの現場を10年ほど経験した後のことです。

 きっかけはある日、僕の中でふと疑問が湧いたことでした。もしかするとバラエティは、台本を作り込まないほうが面白いのではないか、と。

 実際、バラエティでは台本通りに演者さんがしゃべることはほとんどありません。彼らもプロですから、その場その場のアドリブに任せたほうが、番組は盛り上がります。台本に書かれた細かな進行やセリフが、かえって足枷になってしまうこともあるでしょう。つまり、僕が作家としての仕事を放棄すれば、番組はより面白いものになるかもしれない。そう考え始めると、この仕事がどうにも退屈に感じられるようになり、次第にお酒の席などで「ドラマの仕事がやりたいなあ」とぼやくことが増えていきました。

〝1年生〟のドキドキを感じ続けるための挑戦

 これは僕の生まれ持った性分のようなものなのですが、何事も慣れてドキドキ感が失われると、飽きてしまうことがよくあります。それに気づくと、フィールドを変えて〝1年生〟の初心に戻りたくなるんです。これまでと違うところに行くという冒険に挑戦して、ハラハラ、ドキドキしていると、自分が生きている実感が湧くんですね。

 とはいえ、今さら急にミュージシャンなど他の職業を目指すことはできません。脚本家の仕事の範疇で、何か新しいことを探さなければならないわけです。

 するとある時、バラエティ班からドラマ班に異動したプロデューサーから、「そういえば君塚さん、ドラマの仕事をやりたがってましたよね」と電話がかかってきました。彼としても脚本家の人脈が少なく、勝手知ったるスタッフと仕事をしたいという思惑があったのでしょう。深夜ドラマのオファーでしたが、バラエティにマンネリを感じていた僕は、一も二もなくこの話に飛びつきました。

 その後、この作品をたまたま見ていた他局のプロデューサーからも仕事が舞い込むようになり、僕は晴れてドラマの分野に移行することになるのです。やはりやりたいことや希望は、日頃から口に出して発信しておくべきだと実感させられますね。

 ただしもちろん、こうして長くドラマの仕事を続けていると、またしてもドキドキ感が薄れ、マンネリに陥ってしまうことがあります。そこで一時期は、映画の脚本オファーをいただいた際、「監督も兼任させてくれるならやります」と返事をするようにしていました。でも、たいてい二度と電話がかかってくることはありませんでしたね(苦笑)。僕には助監督の経験すらないのですから、それも当然でしょう。

 そんな中で1人だけ、「いいですよ、ちょうど新しい監督を育てようという動きがあるので」と言ってくれたプロデューサーがいました。これが実現したのが『MAKOTO』という作品です。初めての監督経験はとにかく新鮮でドキドキの連続。結果的に映画のほうでも仕事ができるようになりましたし、これはラッキーでしたね。

多彩なテーマが潜む警察学校という舞台

 最近、そんな僕をドキドキさせてくれるオファーがありました。フジテレビの開局60周年を記念して制作されるテレビドラマ、長岡弘樹さん原作の『教場』です。

 僕はこれまで原作なしのオリジナル脚本を手掛けることが多く、原作ものに関しては、その作品を心から面白いと思えなければ、基本的にお引き受けすることはありません。なぜなら脚本家の仕事とは脚色の作業であり、脚色すべきは僕自身がその作品に感じた第一印象です。だから、僕がその作品を読んで感動したりワクワクした体験を、視聴者にそのまま伝えたい。つまり、ぴくりとも感情が動かない作品は、そもそも脚色することができないんです。

 その点、『教場』は警察学校を舞台としたミステリーで、学園ドラマや青春ドラマなど多彩な要素が詰まっていて、夢中になって読み進めることができました。僕の大好物である伏線の回収も見事で、執筆に取り掛かる前に何度も何度も読み返しました。

 とりわけ興味深いのは、世界観を通して厳しい教師像を提示していること。中学校や高校の教師とはまた異なる、警察官を輩出する教育現場を通して、冷徹で厳格な教師の姿をこの作品は表現しています。主人公の風間指導官は、警察官という生死のリスクを伴う職業に生徒を送り出す立場だからこそ、厳しく、アンチヒーローの側面を持っています。卒業させることを目的とするのではなく、適性のない人間は退学させていかなければならないため、学園ものにありがちな人情ドラマのテイストは皆無です。これは間違いなく面白い脚色ができるに違いないと確信しましたね。

教場

 執筆にあたっては、『傍聞き』や『群青のタンデム』など、長岡さんの他の著作もたくさん読み込みました。そして、様々な作品に触れるうちに、長岡さんはもしかすると、〝真実を受け入れる勇気〟のようなものを、小説を通して伝えようとしているのではないかと考えるようになりました。この世の中では、人も社会もさらけ出せない本音や真相をたくさん抱えています。だからそれを隠したり誤魔化したりしているわけですが、長岡さんはそうした真実に触れる勇気を描こうとしているのではないか、と。『教場』も同様で、風間指導官は生徒たちに様々な真実を突きつけています。

 もちろん、これは僕の推測に過ぎず、長岡さんの本当の意図はわかりません。でも、こうして原作者の思いを知ろうと努力することは、脚色を担う脚本家にとって非常に大切なことだと思います。その物語に込められたものをできるかぎり読み取った上で、僕らは脚本を作り上げなければなりません。

 正直に言えば、原作が面白いというのは、脚本家にとってプレッシャーでもあるんです。この面白さを、テレビ向けにアレンジして視聴者に伝えなければならないわけですから、責任は重大です。でもそれは、監督や演者もきっと同じ気持ちでしょう。

 果たして、今回の作品に僕らが何を見出し、どう表現したのか、楽しみにしていただきたいですね。

(構成/友清 哲)

 

君塚良一(きみづか・りょういち)
1958年東京都生まれ。日本大学藝術学部卒業。初の連続テレビドラマ『ずっとあなたが好きだった』が大ヒット、冬彦さんブームを巻き起こした。98年『踊る大捜査線 THE MOVIE』で日本アカデミー賞脚本賞、ヨコハマ映画祭脚本賞を受賞。2003年『踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』で日本アカデミー賞脚本賞、08年『誰も守ってくれない』でモントリオール世界映画祭最優秀脚本賞など、受賞歴多数。

 

君塚良一さんをもっと知る 
Q&A

1.夜型? 朝型?
結婚して子供が生まれてからは、朝型になりました。9〜10時には仕事場に入るようにしていますから。それ以前は、寝ている時間以外は仕事をしているか酒を飲んでいるかのどちらかでした。

2.犬派? 猫派?
犬派です。4〜5年くらい前に亡くなってしまいましたが、ずっと犬と暮らしていました。最後は介護で大変でしたね。

3.お酒は飲みますか?
現在は少したしなむ程度。数年前に体を壊してからは、だいぶ控えるようになりました。今は週の半分くらいでしょうか。近所の居酒屋でよく焼酎を飲んでいます。

4.ストレス解消法は?
今はもう、ストレスになるほど仕事を詰め込むことはしないのですが、それでもジムには通っています。

5.オフの日の過ごし方は?
僕は趣味が仕事なので、映画を見ていることが多いですね。劇場にも出掛けますし、自宅でもよく見ています。

6.影響を受けたドラマは?
僕の学生時代はドラマ全盛期で、倉本聰さんや早坂暁さんといったスター作家が大勢いました。とくに『夢千代日記』で著名な早坂さんは、「事件」シリーズなど、犯罪捜査の過程で社会を見せるような手法を最初にやった方。これは今でも非常にいいお手本になっていると思います。

7.もし今この仕事をしていなかったら、どんな仕事をしていたと思いますか?
考えたこともありませんが、もしサラリーマンになっていたら、30代の頃の僕は野心に燃えて、ひたすら出世を目指して頑張っていたでしょうね。当時はそのくらいギラギラしていました。


木村拓哉が警察学校の冷徹教官に!!

「STORY BOX」連載、
長岡弘樹による大ヒット警察学校ミステリー
『教場』が豪華キャスト、スタッフで待望の映像化!

フジテレビ開局60周年特別企画『教場』
1月4日(土)、5日(日)
二夜連続よる9時スタート

〈「STORY BOX」2020年1月号掲載〉
◇自著を語る◇ 鈴木るりか『太陽はひとりぼっち』
◇長編小説◇飯嶋和一「北斗の星紋」第11回 前編