◎編集者コラム◎ 『ハッチとマーロウ』青山七恵

◎編集者コラム◎

『ハッチとマーロウ』青山七恵


「ハッチとマーロウ」単行本&文庫

 2016年春。青山七恵さんから新連載の原稿が届いた。

「ママは大人を卒業します」宣言から始まる第一話。

 これまでの作品とがらっと変わったその冒頭に、どんな物語が紡ぎ出されていくのかと、興奮したことを今でも覚えています。

 

 扉のイラストを決めるとき、青山さんから「あこがれていたイラストレーターがいらっしゃるんです」と田村セツコさんの名前が切り出される。…サンリオでイラストが商品化し、大人気シリーズ「おちゃめなふたご」でも挿絵をご担当されたあの田村セツコさん? ダメ元でとご依頼。目の前に現れた田村セツコさんは、ご自身のイラストそのままの本当にかわいらしく魅力的な方。挿絵をお引き受けくださることをご快諾をいただき、この連載は順調なスタートを切りました。

 毎月届く、双子とママのコミカルでハッピーで、時に辛口なストーリー。物語を彩る温かいイラスト。なんという贅沢。挿絵は文庫にも収録されています。

 

 連載開始から1年。最終回の原稿を受け取る。双子の成長はもちろん、母親の双子へのまっすぐで不器用な愛情にも涙が溢れる。こっそり仕事場のトイレに駆け込み、涙をぬぐいながら結末を堪能。双子も母親によって11歳で突然大人にさせられたけど、母親だって、子を産み、母になった瞬間、突然大人にさせられたのだ。どう振る舞えば正しい大人なのかなんて、誰も教えてくれなかった。ママと急に呼ばれても、母親だって、まだ誰かの子供の途中だったんだって気づかされ、なんとも笑えて泣けてしまう。文庫化にあたり、東直子さんに御執筆いただいた解説。世間からつきつけられた母親像の考察にただただうなずくばかり。これも是非多くの方に読んで貰いたい解説です。

 

 あたりまえに一緒にいると思っていた子供だって、仲のいい友達だって、親だっていつか別れる時がくる。遠く離ればなれになったとしても、濃密に過ごした瞬間が記憶の中に残っていれば、それを糧に人はともに生きていけることを、優しい文体の中で鋭く描き出す青山さんって。やはりすごい。

 コロナが流行し、在宅勤務となり、家で仕事をしながら子供のご飯作りに振り回され、休校中の子供の怠けっぷりに怒りを覚える。でも、いつか子供たちが巣立った時に、思いがけずに訪れたこの濃密な時間が、人生の糧としてかけがえのない思い出になるかもしれない。「ハッチとマーロウ」を読み返し、昼から荒れ狂う子供達の破天荒な行いもほほえましく……今は…やっぱり…思え…ない。

──『ハッチとマーロウ』担当者より

ハッチとマーロウ

◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第86回
◎編集者コラム◎ 『ボローニャの吐息』内田洋子