◎編集者コラム◎ 『氷と蜜』佐久そるん
◎編集者コラム◎
『氷と蜜』佐久そるん
脳髄を激しく刺激された一作だった──
本作は、第1回日本おいしい小説大賞の最終候補の一作でした。冒頭は、選考委員・山本一力氏の選評の一節です。選考会では、本作を読んでかき氷を食べに行ったとも話しておられました。
惜しくも受賞には至りませんでしたが、かき氷のことをここまで描き尽くした小説はほかに読んだことがありませんでしたし、かき氷が食べたくなる力があるってすごい! と、刊行が決まりました。
美味しそうなかき氷の描写は、本作の大きな魅力です。氷を削る機械の扱い方に始まり、削られた氷が軽やかに舞う様子や、鮮やかなシロップ、ナッツやフルーツ、香り高いクリームなど多彩なトッピングの数々、そしてそれらをどのように組み合わせて一つの器に盛るか。バリエーション豊かに描かれます。
著者の佐久さんには、刊行を目指して改稿を繰り返していただきましたが、かき氷についての表現はほぼ応募原稿のままだと思います。どうしてこれほどまでにかき氷に詳しいのだろうと思っていたのですが、ご本人のSNS(@sakusakusoru )を見て納得。そこには、色とりどりのかき氷の写真がたくさんアップされていました。作品の中では、かき氷を愛してやまない人たちのことを「ゴーラー」と表現していますが、ご自身がまさに「ゴーラー」さんでした。
物語の舞台は、奈良と大阪です。
大阪に住む主人公の陶子は、奈良で幻のかき氷「日進月歩」に出会い、その奈良の地で開催されるかき氷コンテストに出場するために、大阪中のかき氷店を巡ります。
本作の担当になるまで、奈良はかき氷で町興しをするほど盛り上がっていることも、大阪にかき氷を出すユニークなお店が群雄割拠していることも知りませんでした。作品の中に描かれたイベントやお店の様子を読んでいると、佐久さんはかき氷だけでなくその周辺全部への愛があるんだなと感じます。
ところで、大阪のかき氷店がたくさん出てきても……と思っている方はぜひ、巻頭の「大阪かき氷マップ」を参照ください。陶子たちが駆け巡る様子を、地図の上で辿れます。
現実の世界では、そろそろかき氷の季節ですね。活気を取り戻した街でかき氷を頬張る日を心待ちにしながら、『氷と蜜』を読みましょう!(食べたくなっちゃったらごめんなさい汗)
──『氷と蜜』担当者より