板倉俊之ひとり応援団
お笑いコンビ・インパルスの板倉俊之さん、と聞いて皆さんは何を思い浮かべるだろうか。どこか不思議で奇妙なキャラクターを演じるボケ担当の人。またはサバイバルゲームとかガンダムが好きなマニアックな人、とか。
そのイメージは勿論なのだが、私の中で板倉さんは、"すごい面白い小説を書く天才"である。 先月発売された『月の炎』を読んで、改めてその凄さを実感したので、今回ここで今まで書籍化された作品を紹介したいと思う。
一作目『トリガー』は、近未来の日本が舞台。犯罪件数が減らないことに悩む国王が、各都道府県に国王の分身といえる者を配置し、その権限を与えられた者は自分の判断で犯罪を犯す者、またそれに準じる者を射殺する権限と銃を与えられる、という過激な書きだしで始まる。
『トリガー』と呼ばれる彼らがどのように人を裁き、もしくは手を下すのかまた下さないのかというところと、射殺された者にも家族とかがいて、彼らはどうなるのか、その悲しみや恨みの連鎖が強烈に心に突き刺さってくる。人が人を裁くことの恐ろしさについて考えさせられる部分もあるが、なによりストーリーが面白すぎて思わず一気読みしてしまう。
二作目『蟻地獄』は、裏カジノでイカサマがバレた主人公が、カジノを営業するヤクザに親友が人質に取られ、5日以内に300万円を持ってくるよう要求されるところから始まる。
手持ちの金もない、消費者金融から借りることもできないそんな彼が思いついた手段とは……。ダメ男ともいえる主人公だが、意外と親思いだったり動物に優しかったり、何より親友のために奔走する姿に、金を調達する手段は怖すぎるのについ応援してしまう。驚きのラストにも注目してほしい。
最新作『月の炎』は、前の二作のダークな主人公達と打って変わって小学生が主人公。
皆既月食の後から町で続いた連続放火。弦太と友人の涼介、隼と共に犯人探しを始める。S・キングの『スタンド・バイ・ミー』を思い出させるような少年たちの事件を探る冒険が楽しいのだが、真相がわかってきたら段々切なくて苦しくなってきて、タイトルの意味がわかった時には号泣だった。個人的にはイチ推しの作品。
(「きらら」2018年5月号掲載)