◉話題作、読んで観る?◉ 第20回「火口のふたり」
脚本・監督:荒井晴彦/出演:柄本佑 瀧内公美/配給:ファントム・フィルム R18+
8月23日(金)より全国公開
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直木賞作家・白石一文が2012年に発表した同名小説の映画化。さまざまな大人の恋愛小説を手掛け、熱烈なファンを持つ白石だが、映画化されるのは今回が初めて。ベテラン脚本家の荒井晴彦がみずから監督も務め、濃厚な官能映画に仕上げている。
本作の主人公は妻と別れ、勤めていた会社も倒産し、人生に行き詰まってしまった30男の賢治(柄本佑)。兄妹同然に育ったいとこ・直子(瀧内公美)の結婚式に出席するために実家へ帰省する。久しぶりに再会した賢治と直子に、お互いの体を激しく求め合った若い頃の記憶が甦る。直子が結婚式を迎えるまでの限られた日々、2人はすべてを忘れて刹那的な快楽の世界へと溺れていく。
白石作品では直木賞受賞作『ほかならぬ人へ』やロングセラーを続けている『翼』など、運命の恋人、魂の片割れが度々描かれる。本作の賢治と直子もそのひと組だ。お互いの性格をよく知っているいとことのセックスというタブーすれすれの題材を扱うことで、先行きの見えない現代社会を生きる主人公たちの不安感、やるせなさがひしひしと伝わってくる。
舞台を原作の福岡から秋田へと移し替えた映画版に登場するのは、原作の設定よりもかなり若くなった賢治と直子の2人だけ。直子の婚約者であるエリート自衛官が出張から帰ってくるまでの5日間、2人はご飯を食べ、酒を飲み、さまざまな場所で愛し合い、そして眠る。本能の赴くまま、「身体の言い分」に身を委ねる2人の姿に心が動かされる。
主演から脇役まで多彩な役を演じ分ける演技派・柄本佑の相手役を務めるのは、震災から復興中の福島を舞台にした廣木隆一監督作『彼女の人生は間違いじゃない』での熱演が評価された瀧内公美。瀧内の一糸まとわぬ姿もセクシーだが、空撮された富士山の大きな火口も妖しい艶かしさを感じさせる。直子も富士山も、どうやら大自然の摂理に従って生きているらしい。
白石作品の映像化は、永作博美主演作『私という運命について』が2014年にWOWOWで連続ドラマとして放映されて以来。男と女の本音が綴られた「かけがえのない人へ」や『僕のなかの壊れていない部分』なども映像化されると面白そうだ。
(文/長野辰次)
〈「STORY BOX」2019年9月号掲載〉