◉話題作、読んで観る?◉ 第44回「ずっと独身でいるつもり?」
11月19日(金)より全国ロードショー
映画オフィシャルサイト
写真集『Sincerely yours…』が60万部を超えるベストセラーとなった、元TBSアナウンサー田中みな実の初主演映画。原案・雨宮まみ、原作・おかざき真里の同名コミックを、作家としても活躍するふくだももこ監督が映画化した。
まみ(田中みな実)は望んでいたライターという職業に就き、充実した生活を送っている。だが、36歳となり、実家の母親(筒井真理子)は電話で「誰かいい人いないの?」と口うるさい。
自立して働く女性であることに誇りを持つまみだが、一生ひとりで生きていくのは怖い。付き合い始めて日の浅い彼氏(稲葉友)から求婚され、あっさりOKしてしまう。婚約を発表すると、まみのファンだった女性・由紀乃(市川実和子)から「いちばん寂しい女って、『ひとり』が怖くて誰とでもすぐくっつく女」とネット上でディスられてしまう。
まみは彼の両親と会い、ブライダルチェックを受けるなど結婚の準備を進めるが、次第に婚姻は幸せな人生のゴールではないと気づく。割り切って踏み切るべきか、まみの心は揺れ動く。
年下の彼氏は「まみの笑った顔が好きだな」と度々口にする。悪意のないこの言葉によって、まみは怒ることも、愚痴ることも許されず、いつも笑顔でいなくてはならない。生身の女性に対して、「理想の女性像」を押し付ける男たちの無神経さが、浮き彫りにされている。
別れた恋人との復縁を考える由紀乃、なんちゃってイクメンの夫に振り回される主婦の彩佳(徳永えり)、若さを武器にパパ活に励む美穂(松村沙友理)らの視点を交えたオムニバス形式で物語は進む。なかでもインパクトがあるのは、SNS上は幸せな家庭生活を送っているはずの彩佳の台詞だ。
「孤独死のほとんどは既婚者なんだよ」
脚本、撮影、美術も女性スタッフが手掛けており、女性なら誰もが共感を覚える内容となっているが、男性が観たほうがより気づきが多いだろう。『M 愛すべき人がいて』(テレビ朝日系)での怪演が話題を呼んだ田中みな実は、本作では働く30代の女性を自然体で演じている。感情を爆発させるラストシーンには、男性社会でしたたかに生きてきたように見える彼女自身の本音が込められているように感じた。
(文/長野辰次)
〈「STORY BOX」2021年12月号掲載〉