◉話題作、読んで観る?◉ 第5回「空飛ぶタイヤ」

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監督:本木克英/脚本:林民夫/出演:長瀬智也 ディーン・フジオカ 高橋一生 深田恭子 岸部一徳 笹野高史 寺脇康文 小池栄子 阿部顕嵐 ムロツヨシ 中村蒼/配給:松竹
6月15日(金)より全国ロードショー
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http://soratobu-movie.jp/
©2018「空飛ぶタイヤ」製作委員会

 池井戸潤の企業小説は、『半沢直樹』(TBS系)の大ヒット以降、各テレビ局で引っ張りだこ状態が続いている。2006年に発表された『空飛ぶタイヤ』は直木賞候補にもなった池井戸の代表作のひとつだが、09年にWOWOWで連続ドラマ化されたものの、民放各局は手を出せずにいた。自動車メーカーによる"リコール隠し"というスポンサータブーに繋がりかねない題材を扱っているためだ。

 長編の原作小説を、映画『空飛ぶタイヤ』は上映時間119分の中で、トレーラー脱輪事故の真相を暴こうとする弱小運送会社の社長・赤松(長瀬智也)と大手自動車メーカーでエリートコースを進む課長・沢田(ディーン・フジオカ)との対決を中心軸に、テンポよくまとめ上げている。

 映画版の面白さは、犯罪には縁遠い人たちの心の中に社会悪が顕在化する様子をくっきりと描いている点だろう。トレーラー事故によって会社経営の危機に瀕した赤松は、事故の原因は整備不良ではなくトレーラーの構造にあるのではないかと疑問を抱き、事故車の回収をメーカーに要求する。リコール問題となれば莫大な損失となるメーカーは、頑なにこれを認めない。事故対応にあたる販売部の沢田は、赤松に億単位の補償金を渡すことで懐柔しようとする。

 補償金を受け取れば、赤松は部下たちの暮らしを守ることができる。一方の沢田は事故処理能力を評価され、花形部署への栄転が約束されていた。自分たちの生活を守るために社会倫理と被害者遺族の声は抹消され、組織犯罪がはびこっていく構造が浮かび上がる。

 脚本家の林民夫は『ゴールデンスランバー』『永遠の0』でも情報量の多い小説を、巧みに映画へと翻訳してみせた。本作でも手際よく、トレーラー事故から派生した事象を時系列順に構成してみせる。企業で働く男たちの熱いドラマに仕立てたのは、松竹で長年にわたって社員監督をつとめてきた本木克英監督。ヒット作『超高速!参勤交代』に続いて、組織の在り方やサラリーマンとしての矜持を赤松や沢田に託しながら物語っている。ディーンが心を許す同僚役のムロツヨシも好演。彼もまた組織に必要な潤滑剤だ。

 

(「STORY BOX」2018年6月号掲載)

原作はコレ☟
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空飛ぶタイヤ
池井戸潤/著
(講談社文庫、実業之日本社文庫)
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