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ゴールデンウィークに読破したい「GW」本

森谷明子『緑ヶ丘小学校大運動会』は、人間の深淵を見るような真相と重なる展開で一気読み必至の物語です。

丸善ラゾーナ川崎店(神奈川) 市川淳一さん

 五月はいい! 暑くもなく寒くもなく、ちょうどいい。ずっと五月だったらいいのに……(四季完全否定)。

 三島由紀夫『美しい星』が、映像化されると知った時は本当に驚いた。学生時代に三島作品のほとんどを読み、その中でも一番といっていいくらい好きな本作だが、突飛な設定が当時の人にはあまり受け入れられなかったと聞いていたからだ。

 自分が地球を救うために派遣された宇宙人であると信じて疑わない中年男とその家族が、使命のため奮闘する物語。誰からも賛同を得られない彼らの行動は、やがて周囲や社会との不調和を生んでいく……。作中で主人公の重一郎が語る、人類だけが持つ「五つの美点」のくだりは何度読んでも涙してしまいます。

 ここまで書いて、何かの随筆で三島が「英雄の雛形はドン・キホーテである」みたいなことを書いていたのを思い出した。その後の氏の生き方を考えるに、とても興味深い作品なのです。

 森谷明子『緑ヶ丘小学校大運動会』は、小学校の運動会を舞台に描かれる本格ミステリ小説。

 校内で起きたある事件の真相に迫ろうとする主人公のマサル達のミステリパートと、そんなことはお構いなしに粛々と進行する運動会の描写が、とてもシュールで面白いです。特殊な空間に集った大勢の人々が、プログラムに沿って行動する一日。人間の深淵がのぞき見えるような真相と、二転三転する展開で一気読み必至な物語です。

 全然関係ない話ですが、運動会っていつから五月の行事になったんでしょうか……?

 伊東潤『峠越え』は徳川家康を主人公に、彼の生涯の中で、幾つもあった人生の切所をいかに乗り越えていったかを描く歴史小説。

 だいたいの作品では、煮ても焼いても食えない狡猾な人物として語られることの多い家康ですが、この作品では凡庸で臆病、それでも努力と忍耐で道を切り開こうとする非常に人間臭くて、魅了的なキャラクターとして表現されています。

 織田信長という理不尽な上司に振り回されながらも、一歩ずつ前に進み、やがて天下人にまで上りつめた男の生涯。五月病気味なアナタにも是非是非おススメしたい作品です。




前を向いて働くエネルギーをくれる「パワーチャージ」本

『書店ガール』(碧野圭)には女の悩みや葛藤が描かれ、ページを開くたび名言を叫び自分を奮い立たせている。

TSUTAYA寝屋川駅前店(大阪) 中村真理子さん

 人が発する『熱』にめっぽう弱い。頑張る姿はもちろん、必死にもがいている姿にも心を揺さぶられる。自分だけがこんなに必死なのでは? 自分だけが空回りしているような気がしている時、一人ぼっちで苦しい時。弱さや苦しさを忘れてしまうくらいのパワーをもらえる本がある。

『書店ガール』碧野圭(PHP文芸文庫)。その名も書店ガール。自分がガールかどうかは怪しいものだが、登場する書店員たちのタイプは様々だ。まるで自分もそこにいるかのように伝わってくるリアルさはもちろん、登場人物が悩んだり落ち込んだりする内容もリアルで、今まで現実の場面でも幾度となく助けられてきた。この本には「女」としての悩み、葛藤も山ほど描かれているので、いつもページを開いては、名言を叫びながら自分を奮い立たせている。

『桜風堂ものがたり』村山早紀(PHP研究所)、誰かが誰かのために物語を織り、誰かはそれを多くの人に伝えたいと願って、誰かは最前線でそれを手渡す。書店員になって、自分がその最前線にいることに気付いた瞬間、なんてラッキーで幸せな仕事なんだ、とハッとした事がある。それが自分の転機だと思った。どんな仕事でも、苦しい事悲しい事やり切れない想いを抱えながら、人間が動かしている。見えない誰かのことを想像するだけで、抱えていた苦しみからスッと解放される時がある。顔が見えなくてもその先にいる誰かのことを想って紡がれたこの本にはその力がある。ついつい忘れがちな大切なことを想い出させてくれる本。

『小説王』早見和真(小学館)。本が売れるのは、ラッキーかアンラッキーか。読者の手に届くまでたくさんの人の手を介している。本になるもっと前、小説が出来る現場。たくさんの選択肢の中から掬い上げたひとつひとつの言葉を紡いで物語が生まれる。物語が無かったら無かったで世界は回る? 果たしてそうだろうか。文芸氷河期に苦し紛れの戯言だろうか。泥臭くても綺麗事でもそれでもしがみついて離さない。著者、編集者の魂の叫びにガツンとやられるお仕事小説。

 まっすぐでひたむきで丁寧、ハッとするほどの熱量にいつもパワーをもらえる。人の発する『熱』にはパワーが満ちている。お疲れの際にはぜひお読み頂きたい3冊です!

 

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