ヘトヘトになった時に元気をくれる「ビタミン」本
高野秀行『アジア新聞屋台村』は熱量が凄くって、ちっぽけなことで悩んでる自分が馬鹿らしくなってくる。
さわや書店フェザン店(岩手) 長江貴士さん
「ええじゃないか作戦」って聞いたことある? 知らないの? 金城一紀『レヴォリューションNo.3』に出てくる「ゾンビーズ」たちがね……、えーっと「ゾンビーズ」っていうのはさ、偏差値が低すぎて殺しても死ななそうな高校生が自分たちにつけた名前なんだけど、そいつらがやっちゃうわけ、「ええじゃないか作戦」。なんのためにって? 女子校の学園祭に潜入するためだよ! 小説読んで、こんなに笑えることあるんだってぐらい笑ったなぁ。他にも色んなことするわけよ、「ゾンビーズ」って。大金を奪われて取り返したりさ、ストーカー男を撃退したりね。バカなんだけど、いい奴らなんだよなぁ。こういう信頼で結ばれた関係って、やっぱちょっと羨ましくなっちゃうね。
あとさ、「クワコー」って知ってる? 桑潟幸一っていうさ、最底辺の私立大学で教授をやってるオッサンで、奥泉光『桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活』に出てくるんだけど、全然スタイリッシュじゃないわけよ。クワコー、卑屈すぎてまじキモい! 地位もやる気も人望もないし、些細なことでイジケたり意味不明な行動を取ったりするのよ。本人は真面目にやってるってのがさらにイタいよねぇ。顧問やってる文芸部の部員からも最下層扱いされててさ、マジ憐れ! って感じ。まあでも、良く見ようと思えば可愛くも見えるかもね。あ、文芸部の部員も、変人揃いで楽しいよ。探偵役のジンジンとか、惚れちゃうぐらいの破天荒さだわ。このグダグダした感じに交じりたいなー。
そうそう、例えば何か原稿を頼まれるとするじゃん? 普通、何文字ぐらい書いたらいいか聞くよね? その答えがさ、「縦が24・5センチで横が17センチです」だったらどうする? ヤバくない!? 意味わかんなくない? これさ、高野秀行『アジア新聞屋台村』のタカノが経験したんだって。小説なんだけど、実話が元らしいからさ、ホントの話なのかも! 成り行きでタカノは〈エイジアン〉っていう多国籍新聞社の顧問になるんだけど、もうハチャメチャなわけ。台湾人の美人社長の劉さんからしてぶっ飛んでるし、新聞を作ってる社員も全員おかしい! でもね、日本人には醸し出せないパワフルさと熱量が凄くって、ちっぽけなことで悩んでる自分が馬鹿らしくなってくるんだなぁ。
新生活におススメしたい「これぞ!」本
原田マハさんの『旅屋おかえり』。不吉なことを言うようですが、絶対に安全な会社などありませんよ。
三省堂書店営業本部(東京) 新井見枝香さん
皆さん、入社おめでとうございます。皆さんは、この会社で新社会人としてスタートするにあたり、期待に胸を膨らませていることと思います。しかし私は、その誇りと喜びと期待がパンパンに詰まったところに、意地悪くもぷつんっと針で穴を開けてやろうと思っています。就職難の今、せっかく希望の会社で正社員になれたのだから、絶対に失敗してはならない、と思ってはいませんか。しかし、その頑なな思い込みは、じわじわとプレッシャーになって、いつかあなたの心を苦しめる時がきます。がんばってもうまくいかない時や、何もかも嫌になって逃げ出したくなる時は、長い会社員人生のうちに何度もやってきます。そんな時に思い出して欲しい3冊の本を、ご紹介したいと思います。
まず1冊目、津村記久子さんの『この世にたやすい仕事はない』。自分で言うのもなんですが、私のように優秀で根が真面目で、がんばり屋さんタイプは、つい期待に応えようと張り切りすぎて、燃え尽きてしまうことがあります。この物語では、そんな彼女が仕事を辞めて、ハローワークに通って、仕事を転々とします。今の皆さんからは、想像もつかない未来でしょうね。
2冊目は、原田マハさんの『旅屋おかえり』。唯一の仕事が旅番組のレポーターというタレントが、ちょっとしたミスで、番組スポンサーを怒らせてしまいます。取り返しのつかない失敗は、彼女をあっという間に無職に、彼女が所属する事務所も倒産の危機に追い込まれます。こんな日に不吉なことを言うようですが、絶対に安全な会社などありませんよ。
3冊目は、芦沢央さんの『雨利終活写真館』。結婚を機に、好きな仕事を辞めざるを得なくなることもあるでしょう。しかし、寿退社したと思ったら、相手の裏切りが原因で結婚がナシになってしまった。だからといって、テヘヘと頭をかいて戻るわけにもいきません。仕事も恋人も同時に失ってしまったら……。胸がぺしゃんこになってしまった先輩たちが、どうやって生きていくのかを、しっかりと目を逸らさずに見届けてください。
晴れの日に、ちょっといじわるなスピーチをしてしまいましたが、私は皆さんのこれからの活躍を、心から祈っています。
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