# BOOK LOVER*第1回* 尾崎世界観

#BOOK LOVER*第1回*尾崎世界観

 一九九五年、小学五年生の秋に「未成年」というドラマを見た。年上の高校生がたくさん出てきて、ロックバンドのライブシーンが流れたり、女性の裸が映ったりした。普段は明るいイメージのテレビから、なんだか得体の知れない影のようなものを感じて、ちょっと不気味だった。それでもやっぱり気になって、毎週ドラマが始まる時間になると部屋で一人落ち着かなかった。回を追うごとにドラマの中の高校生たちは追い詰められていって、見ているこっちも息が詰まった。最終回の放送を目前に控えたある日、近所の本屋でそのドラマの小説を見つけた。当時、小説の単行本はまだ買ったことがなくて値段を見て驚いた。翌日、どうにか小説を買えるだけのまとまったお金を用意して書店へ行った。すると、新刊コーナーに積み上がっていたはずのあの小説だけがない。

 向かいのレジにいる店員に聞けば、売り切れたと言う。昨日まで小説が置かれていたその穴をじっと見つめていると、体中から力が抜けていった。まだ諦めきれず、比較的大きな書店から古くて小さな書店まで、小説を探す書店巡りが始まった。売り切れだと言われればさっきまでそこにあった気配を感じて、そもそも入荷していないと言われればまたひとつ遠ざかったような気がした。もう半ば諦めて、やけくそで入った十数軒目の書店でついに見つけた。

「未成年」

 表紙に大きくタイトルが記されたハードカバーを手に取り、手汗がつかないよう気をつけながらレジに持っていった。

 今はもう、十数軒まわれるほどの書店が街にないし、欲しければネットですぐに手に入る。まだ未成年の頃の、懐かしい本の思い出。

 


夜にしがみついて、朝で溶かして

アルバム『夜にしがみついて、朝で溶かして』
クリープハイプが約3年3か月ぶりとなる6thアルバムをリリース。「しょうもな」「キケンナアソビ」「四季」といった既発曲のほか、映画『ちょっと思い出しただけ』の主題歌に決定した新曲「ナイトオンザプラネット」など過去最多の全15曲を収録。

尾崎世界観(おざき・せかいかん)
1984年11月9日東京都生まれ。2001年結成のロックバンド「クリープハイプ」のヴォーカル・ギター。12年、アルバム『死ぬまで一生愛されてると思ってたよ』でメジャーデビュー。14年、初の日本武道館2Days 公演を開催、18年にも4年ぶりとなる日本武道館公演を成功させる。16年、初小説『祐介』を書き下ろしで刊行。その他の著書に『苦汁100%』、『苦汁200%』、『泣きたくなるほど嬉しい日々に』。最新小説『母影』が第164回芥川賞の候補作に選出。

〈「STORY BOX」2022年1月号掲載〉

【2022年「中国」を知るための1冊】岡本隆司『中国史とつなげて学ぶ 日本全史』/日本は中国を模倣することで国家を作っていった
◎編集者コラム◎ 『森から来た少年』ハーラン・コーベン 訳/田口俊樹