# BOOK LOVER*第4回* 岸井ゆきの

# BOOK LOVER*第4回* 岸井ゆきの

 車で出かけるのが好きだ。助手席から見える風景の移ろい。向こうから来るかっこいいあの車はなんて車種? いつかは自分でも運転したい。幼い頃からそんなことをよく考えていた。 

 ようやく運転免許を取るタイミングが摑めたのは2年前。教習所で読むのにぴったりな物語はないだろうかと探して見つけたのが『魂の駆動体』だった。SF好きな私にはぴったりだと直感した。

 読み始めてすぐショックを受けた。「免許が取れたらどんな車に乗ろうかな」とワクワクしながらページをめくったのに、物語の舞台の近未来では車が「完全無人運転の無機質な自走機」に変わり果てていたのだから。

 けれども主人公のおじいさん2人組は、そんな世界で「自分たちの車を作ろう」と思い立つ。しかも一から、手作業で。作る必要も、運転する必然性もまったくないのに。時代に逆行する無駄な行為。 

 けれども私がこの物語世界を生きていたら、きっと彼らと同じことをするだろう。自分の手を動かして、自分が好きなものを作りたい。自動運転の未来が実現したら、私はきっとすごく寂しく感じるだろう。それは車を運転するという自由を手放してしまうことだから。その自由を「ないものにしたくない」と駆り立てられて動く彼らの気持ちに共感した。

 あらゆるものが絶えず新しく作り変えられていく時代であっても、私は長く残っていくものを大切にしたい。そうした行為に宿る「何か」が、魂を駆動させてくれるのかもしれない。

 


魂の駆動体

『魂の駆動体』
神林長平
(ハヤカワ文庫)
人々が仮想空間へと移住しはじめた近未来。2人の老人は生の実感を求めてクルマの製作を開始する。

岸井ゆきの(きしい・ゆきの)
1992年生まれ。2009年、女優デビュー。19年、主演映画『愛がなんだ』で注目を集め、ドラマ・映画・舞台で幅広く活躍。連続ドラマ『恋せぬふたり』(NHK)では高橋一生とダブル主演を務める。

 

やがて海へと届く

『やがて海へと届く』
大切な時間を分かち合ってきた親友すみれが突然いなくなって5年。不在を受け入れられない真奈は、彼女が最後に旅した地へ向かう。替えが利かないからこそ愛おしく悲しい、ふたりの物語。
監督・脚本=中川龍太郎|出演=岸井ゆきの/浜辺美波|4月1日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
映画公式サイト

〈「STORY BOX」2022年4月号掲載〉

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