# BOOK LOVER*第22回* 北原里英
『おかえり、めだか荘』という小説を書くことになり、思い出したことがある。すっかり忘れていた、小学校の頃の記憶だ。
例えば、わたしが人生で初めて夢中になった本が、はやみねかおるの『そして五人がいなくなる』名探偵夢水清志郎シリーズだったこと。初めて読書、というものを知った。そこから青い鳥文庫の「パスワード」シリーズにハマり、電撃文庫の『撲殺天使ドクロちゃん』にハマり……漫画も好きだったけど、そういえば小説も好きだった。好きだったことすらすっかり忘れていたのだ。
その後、ホラー小説に出会い、山田悠介さんを知り、ハマりすぎた結果……小学6年生の学校フェスティバル(文化祭のようなもの)ではクラスの出し物で「リアル鬼ごっこ」の劇をやった。脚本はわたしが担当した。小学生に見せるにはあまりに凄惨な内容だったので、まろやかに物語を書き直した。捕まった佐藤さんが次々に殺されるのではなく、みんな生きたまま捕まっているだけで、誰かが逃げ切ることができたら最後には全員解放される、という話にした。そんな演劇をしたことも、すっかり忘れていた。
だが、考えてみればわたしはAKB48の時にも、全国ツアーで行う寸劇の脚本を書いたり、ミニコントの台本を考えたりと、そういえば脚本家ポジションであった。その萌芽が実は、小学生の頃に、もうすでにあったとは……。
そして芸能界に飛び込んで15年。まさかここで、小説家としてデビューすることになるとは思わなかった。思わなかったが、もしかしたらわたしは、物語を書く運命だったのかもしれない。今回こうした機会をいただけて、今までの人生の伏線を回収できたような気もする。
ずっと身体の一部分だけが触れていた物語の世界。今回、しっかりとその世界に飛び込めたことが幸せである。
『リアル鬼ごっこ』
山田悠介 著(幻冬舎文庫)
全国に500万人いる「佐藤」姓を皆殺しにせよ! 近未来の日本で勃発した大量虐殺。大学生の佐藤翼は大切な人を次々に失いながらも、生き残りを誓って奔走する。
北原里英(きたはら・りえ)
俳優・タレント。1991年、愛知県生まれ。アイドルグループ「AKB48」の第5期生。2015年、NGT48に移籍しキャプテンを務める。リアリティ番組『テラスハウス』やドラマ『家族ゲーム』、映画『サニー/32』などに出演。2018年、NGT48を卒業後は舞台やドラマに多数出演。
『おかえり、めだか荘』
北原里英 著(KADOKAWA)「普通」であることのコンプレックス、仕事で壁に直面したとき、仕事と結婚の選択、親との複雑な関係、……。20代の終わりに四者四様の悩みを抱える女性4人のゆるやかな変化を描くルームシェア小説。