# BOOK LOVER*第20回* 冨永 愛
本との出会いは、未知なる世界との出会いである。
私が星野道夫さんの『旅をする木』と出会ったのは、友人からの勧めであった。私に合うだろう! と、いわゆるビビッとくる感じで、勧めてくれたのだという。
この本は、星野さんが、アラスカを拠点に写真家・執筆家として活動する中で書かれた日記のようなエッセイ集だ。その頃の私は、東京という都会に住みながら、自然に想いを馳せている自分にやや矛盾を感じていた。そんなときに「あわただしい、人間の日々の営みと並行して、もうひとつの時間が流れていることを、いつも心のどこかで感じていたい」という一文を読んで救われた気がしたものだ。自分が生きている時間の流れと並行して、地球のどこかでは異なる生の営みが行われている。それを知り、感じることは素敵なことであると納得できたからだ。
私が本を選ぶとき、とりわけ大事にしているのは、本の中で主人公が読んでいたり、参考文献として紹介されていたりするものを、ネットサーフィンならぬ〝ブックサーフィン〟すること。そうして出会ったのが『日本奥地紀行』『テヘランでロリータを読む』などだ。当たり外れはあるけれど、そうした繫がりで本を選ぶことは、どこか人との〝出会い〟と似ていて、運命を感じてしまう。自分にしっくりくる本と出会えたときの感動はひとしおだ。
私にとって本は、未知の世界へと誘ってくれる旅の案内人であり、知見を広げてくれる教科書でもある。そして何より、私の想像力と人生を豊かにしてくれるかけがえのないパートナーである。
『旅をする木』
星野道夫 著(文春文庫)
世界的写真家にして名文家でもあった星野道夫が、アラスカで過ごした日々を描いたエッセイ集。極寒の大地と海、そこに生きる人々の息吹とぬくもりが文章から立ち上る。
冨永 愛(とみなが・あい)
17歳でNYコレクションデビューを果たし、以後、第一線でトップモデルとして活動。現在は社会貢献から伝統文化の発信まで多岐にわたって活躍中。
〈「STORY BOX」2023年8月号掲載〉