# BOOK LOVER*第21回* 小林愛香
わたしは保育士資格を持っている。本とのエピソードを思い返したとき、はじめての保育園実習での出来事を思い出した。
月齢や年齢によって学ぶことがたくさんあるため、年齢別のクラスを数日ずつ受け持っていく。最初に実習に入ったのは0歳児クラスだった。わたしは0歳児とのコミュニケーションの難しさを感じつつも、触れ合ったり、微笑んだりしていた。やがてお昼寝の前に、ある先生が子どもたちに読み聞かせようと『だるまさんが』の絵本を手にした。
その途端、0歳児クラスの空気が一気に変わる。先生の手元にきゅっと一斉に吸い込まれるように。
(もう早く読んでほしくてたまらない!!)0歳児の全身から伝わる熱量。絵本の内容はわたしも知ってはいたものの、この熱量の所以がわからなかった。
先生が絵本を開く。抑揚のある楽しげな声。目線や表情、ページのめくり方。0歳児の心と同時に、わたしの心も鷲掴みにされていく。
それまで学校の授業では、子どもの想像力を育てるために抑揚はあまりつけずに読み聞かせると習っていたため、実際の現場に出たばかりのわたしにとってとにかく衝撃的だった。想像力を育てるための読み方ももちろんあるし、月齢や年齢に合わせて寄り添う読み方もある。そう学んだ。
本との出会いは、様々な感性に触れ、自分の見える世界を広げることができる。広げて、深めて、育む。
正解がひとつしかないものもある。だけど、正解はひとつだけじゃないものもある。あっていいと思えたのはこの出来事がきっかけだった。
『だるまさんが』
かがくいひろし 著(ブロンズ新社)
「だるまさんが…」から始まるシンプルなフレーズとユーモラスな展開で、0歳の赤ちゃんをも夢中にさせるロングセラー絵本。ファーストブックにもぴったり。
小林愛香(こばやし・あいか)
1993年生まれ。2011年、歌手デビュー。『ラブライブ!サンシャイン!!』の津島善子役で声優デビュー。TVアニメ『幻日のヨハネ -SUNSHINE in the MIRROR-』ヨハネ役。2023年10月18日(水)3rdシングル『グミチュウ』をリリース予定。同年10月23日(月)〝小林愛香 爆誕祭「Happy ∞ Birthday」〟開催。
〈「STORY BOX」2023年9月号掲載〉