飯嶋和一『南海王国記』

飯嶋和一『南海王国記』

南海王国記──日本・中国・台湾を結ぶ海の三國志


 17世紀の半ば、「国姓爺船コクセンヤセン」と呼ばれる中国からの貿易船が、長崎の生糸相場を決定するほどの生糸を日本に運び入れていた。近松門左衛門『国性爺合戦』の主人公のモデルとなった鄭成功傘下の船だった。鄭成功は、1624年7月、日本の平戸で生まれた。父は中国人海商の鄭芝龍、母は田川七左衛門の娘である。日本名を田川福松、中国名は鄭シンと名付けられた。

 満6歳で鄭森は、父の移り住んだ福建の南安に渡る。その時、父芝龍は、すでに1000艘もの船隊を保有する武装海商集団の首領であるばかりか、明朝の招きに応じて中国東南沿海の治安を守る高官となっていた。父は、対抗する海商集団を次々と討伐し、東南沿海の海上権を握る一大軍閥にのし上がったものの、長男の森には官吏登用試験の科挙を突破してエリート官僚の正道を歩ませようとした。

 1644年、森が科挙を目指し南京太学に学んでいた20歳の年、中国を295年にわたって支配した明朝が滅び、満洲人による清が覇権を握った。森は父とともに明皇族の唐王隆武帝を擁立し、明朝による中国支配を回復すべく清に抗戦した。唐王から皇族の姓「朱」を賜り、成功と改名した。父が清に寝返った後も、成功は意志を曲げることなく、最大の抗清勢力を率いて戦い続けた。

 1658年、南京攻略を目指すも敗北した成功は、61年オランダ人を台湾から追放して、鄭政権を樹立し、台湾の開発、そして日本と中国、南洋各地との貿易による海洋王国を企図した。

 この作品は、明末清初の激変の時代に数奇な運命を海に託して生きた鄭氏四代の物語である。

  


飯嶋和一(いいじま・かずいち)
1952年、山形県生まれ。83年「プロミスト・ランド」で小説現代新人賞、88年「汝ふたたび故郷へ帰れず」で文藝賞、2000年『始祖鳥記』で中山義秀文学賞、08年『出星前夜』で大佛次郎賞(同年「キノベス!」第1位)、15年『狗賓童子の島』で司馬遼太郎賞、18年『星夜航行』で舟橋聖一賞を受賞。上記以外の作品に『雷電本紀』『神無き月十番日の夜』『黄金旅風』(すべて小学館文庫)がある。傑作揃いの作品群から、「飯嶋和一にハズレなし」と称えられている。

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南海王国記

南海王国記
著/飯嶋和一

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