降田 天『さんず』

降田 天『さんず』

まえがきのようなもの


 この作品を「どのように」PRするかについて、担当者と何度も話し合ってきました。

 本作は自殺幇助業者という架空の業者を扱ったフィクションであり、我々は根っからのフィクション作家です。不道徳なこと、不謹慎なことを含む非現実の出来事を頭の中で想像し、作品として出力する仕事をしています。

 とはいえ、作品ごとにフィクションの度合いにもグラデーションがあります。取材を積み重ねた作品もあれば、主に脳内で作り上げる作品もある。本作は後者であり、純粋なエンターテインメント作品として構想しました。読者に対して、社会的な問題意識を提起する、もしくは何かを訴えかける作品として企画していません。

 

 残念ながら、本作で取り扱う題材は、連載開始時と比べて、社会的な影響力が極めて強いトピックとなってしまいました。

 今この時代に本作を出版するにあたって、現実のなかで生きることに苦しむ方々が、現実の問題に対処する方法を探してこの書を手に取ってしまうことを、できるかぎり回避したいと思いました。

 そのため、本来は作家の職域ではないキャッチコピーと帯の文言について、可能な範囲で希望を聞いていただき、さらに物語の前に文言を挿入しました。粘り強くつきあってくださった関係者の皆様に感謝申し上げます。

 そして、何かを訴えかける作品ではない、と書いたものの、我々の願いは込めました。五話終盤で、スガがカトウに叩きつける台詞がそれです。

 

 さて、そろそろ内容の紹介を。

 ユルい料理男子のスガと、無愛想スーツイケオジのカトウ。彼らが仕えるのは、大邸宅に住まう謎めいた白髪の老婦人。

 彼らと依頼人をつなぐのは、QRコードが記された白いカード。三途の川の渡し守に導かれ、依頼人たちはどこへ辿り着くのか。

 見た目も性格も正反対な男性バディによる不道徳な闇のお仕事小説。降田らしく、ちょっとした仕掛けもあります。どうかお楽しみいただけますよう。

 


降田 天(ふるた・てん)
鮎川颯と萩野瑛による作家ユニット。2014年『女王はかえらない』で第13回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞。2018年『偽りの春』(『偽りの春 神倉駅前交番 狩野雷太の推理』所収)で第71回日本推理作家協会賞短編部門を受賞。他の著書に『彼女はもどらない』『すみれ屋敷の罪人』『ネメシスⅣ』『朝と夕の犯罪』がある。

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さんず

『さんず』
著/降田 天

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