ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第85回

ハクマン第85回
背中に著書、腹にダイナマイト持参で
県庁を表敬訪問するぐらいの
営業努力は必要だろう。

恐ろしいことにまた締め切りが近づいているのだが、当然のように書くことがない。

あまりにも書くことがなさすぎて何かネタになるようなことがないかとグーグノレで「漫画家」と検索してしまった。

漫画家が書くことがなさすぎて「漫画家」でググってしまうというのは、セックスのことを知りたすぎて辞書でセックスと引いた上に蛍光マーカーでチェックを入れてしまう中高生と同じ精神状態なのではないか。
40にもなって思春期と同じフレッシュな行動ができてしまうのが漫画家の良いところであり、最悪なところだ。

ググってみたところ、どうやらグーグノレは、居住地に近い情報から表示するように設定されているようで、まず私が住んでいるY県で漫画を勉強できる専門学校の広告、そして「Y県在住の漫画家一覧」というページが出てきた。

あまりにもベタすぎて言うのも恥ずかしいのだが「Y県在住の漫画家一覧」の中に私の名前はなかった。

私とて何か得られると思って「漫画家」と検索したわけではない。だがまさか失って帰ってくるとは思わなかった。
さすが我が県、山賊で有名なだけある。
これは冗談ではなく本当に山の中に山賊の拠点があるのだ。

前々から思っていたが、私の地元は私に冷たいような気がする。
ではお前が何か地元に貢献しているのかと聞かれたら、いつもの「ちくしょう俺は納税者だぞの乱」を起こすしかないが、それでも漫画家としての収入にかかる住民税県民税は全て地元に納めてきたはずである。

我が地元に漫画などという退廃文化は不要という考えでもないだろう。
そうだとしたら少し前まで往来を走っていた島耕作バスはモヒカンジープに匹敵する反社会的交通機関だったといえる。
ついでに今、島耕作バスでもググってみたが、想像の100倍耕作強火担の痛バスだった。

むしろ「文字」が伝来したのも令和になってから説があるぐらいの過疎地なのだ。万人にわかりやすい「絵」の需要は他より高いはずである。

そんなことを書くから地元に冷たくされるのかもしれないが、それはブスに対し「ブスなんだから愛想ぐらい良くしろ」と言っているのと同じだ。
なぜそんなひどいことを言ってくる奴に愛想を振りまかなければいけないのか、満面の笑みで刺して来い、と言うのならわかるが優しくない奴に優しさを返すことはできない。

それと同じように、俺に冷たい地元に温かくすることは無理だ。
もし県内の書店全てに自著を平積みしてくれると言うなら私だって、両鼻シケモクガニ股ダブルピースで「地元最高!」ぐらいは言う。

ちなみに Twitter 漫画の地元最高!を読むと、俺に冷たい地元でもここに比べれば最高!と思えるので郷土愛を思い出したい人におすすめである。

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

◎編集者コラム◎ 『壜のなかの永遠』ジェス・キッド 訳/木下淳子
降田 天『さんず』