大谷真弓『アフェイリア国とメイドと最高のウソ』

大谷真弓『アフェイリア国とメイドと最高のウソ』

『失敗という名の国で、国家元首になりすますメイド』


〝政治 ウソ〟で検索すると、たくさんの本や映画がヒットする。それはもう、政治不信に陥らずにはいられないほどに。いえ、不信感はもともとあった。ずっとあったし、これからも消えそうにない。それでも、一筋の希望くらいは持っていたかった。なのに、検索結果にならんだデータを見ると、政治とウソは固い絆で結ばれているかのように切り離せないものらしい。

 そんな汚い世界を、世界的な児童文学作家ジェラルディン・マコックランが、ブラックユーモアの効いた物語にしあげてくれた。舞台は、1920年代の架空の国、その名もアフェイリアだ。
 ア フェイリア=a failure=失敗。
 横暴な最高指導者マダム・スプリーマは、洪水という国の危機に、こっそり姿を消してしまう。けれどスプリーマの夫は、妻が職務を投げだして逃げるはずがないと信じ、迷案を思いつく――本人がもどってくるまで、メイドにスプリーマを演じさせよう!

 ちなみに、メイドは田舎から出てきた15歳の少女だ。難しい言葉や大きい数の割り算が苦手で、マダム・スプリーマには「役立たず」と叱られてばかりいる。それでも、マダムの服を着せ、マダムの帽子とヴェールをかぶせ、いわれたとおりに動いてもらえば、なんとかなるだろう――というマダムの夫の思惑は、痛快に裏切られる。

 この物語には、モデルとなった災害がある。1927年に米国で発生したミシシッピ大洪水だ。ミシシッピ川流域が広範囲で水没し、多くの死者が出ただけでなく、人種差別、偏見、ウソがはびこり、人間の残酷な面があらわになった。作者はこれほどの災害があまり知られていないことにショックを受け、この作品を書くことにしたという。

 大規模な自然災害、逃げだす政治家、フェイクニュースにふりまわされる市民。絶望的な状況のなか、自分の頭で考え、自分の心に問いかけながら、みんなが救われる解決策を求めて奔走する少女の姿に、閉塞的な現代社会への答えと一筋の希望が見える気がする。そして、ピンチのときこそ笑いとばして前に進もうと、素直に思える。そう思わせてくれた少女の名は、グローリア・ウィノウ。WINNOWウィノウには、善悪や真偽を見分けるという意味がある。

 


大谷真弓(おおたに・まゆみ)
英米文学翻訳家。愛知県立大学外国語学部フランス学科卒。訳書にE・アシュトン『ミッキー7』、M・R・コワル『無情の月』、ケン・リュウ編『折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー』(共訳)、L・ベーコン『12歳のロボット ぼくとエマの希望の旅』(以上、早川書房)、R・リグズ『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』シリーズ(共訳、潮出版)など。

【好評発売中】

アフェイリア国とメイドと最高のウソ

『アフェイリア国とメイドと最高のウソ』
著/ジェラルディン・マコックラン 訳/大谷真弓

ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第123回
◎編集者コラム◎ 『星になれない君の歌』坂井志緒