ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第123回

「ハクマン」第123回
漫画は肉体的に過酷だ。
ヒット作を出すのも大変だが、
続けることも大変である。

現在1月5日であり、今日、もしくは昨日が仕事始めという人も多いだろう。
しかし私には「締切1月5日」という、正月中にやること前提の仕事が3つも4つもあり「今日が仕事始め」というのは実質「諦め」を意味している。

よって、正月中も親戚回りなどの合間を縫って仕事を進め、5日に催促を受けるのは癪なので4日には全てを提出、心穏やかに5日を迎え、そろそろ寝るかと思ったところで「今日が締切なんだが」という本原稿の催促が届き、やおら立ち上がったところだ、時刻は23時、そろそろ5日が終わろうとしている。

新年早々Fが止まらないが、逆に言えば今年も漫画家らしいトホホな年明けを迎えることができて嬉しい限りである。
ちなみにトホホとは担当のこめかみに空けた穴から脳漿が零れ落ちる時の音であり、作家の間ではAMSRとして重宝されている。

一昔前には、年が明けた瞬間から仕事がなくなるという芸人もいたのだ。
それに比べれば、年も明けたというのに担当がまだ私のことを覚えていて仕事の催促をしてくるというのは奇跡レベルのめでたさと言って良いだろう。

作家はヒット作を出すのも大変だが、続けることも大変なのである。
よってヒット作を出しながら何十年も描き続けている作家はレジェンドと呼ばれるのだが奇しくも本日レジェンドの一人であるキャプテン翼の高橋陽一先生が事実上の引退を発表した。

還暦を越え体力的な限界がきたことと、作画環境が変わり、コロナなどの影響でスタッフを維持できなくなったことを理由に今年4月をもってキャプテン翼の連載を終了する、とのことである。

しかし、終了理由はあくまで体力と環境の問題であり、もうキャプテン翼は描き切った、描くことがない、というわけではないそうだ。

むしろ先生の今ある構想を全て漫画化しようとしたら「40年以上」かかるらしく、それは現実的ではないとして、現時点での終了を決めたそうだ。

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

◎編集者コラム◎ 『対極』鬼田竜次
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