山崎ナオコーラ『あきらめる』
あキラキラめる
「あきらめる」って言葉をどう思いますか? 私は「好きな言葉はなんですか?」と聞かれたら、「『あきらめる』です」といつも答えています。墓標も「あきらめる」にするつもりです。
現代語では後ろ向きっぽい雰囲気がありますけれども、古語では「明らかにする」という意味合いで使われていたらしく、元々は前向きな言葉だったようなんですよ。それを知ってから、私は「あきらめる」が好きです。
語感もいいですよね。「あ」っていう、一番発音しやすい音から始まって、「きら」という、キラキラした言葉が入り、「める」という溶けそうな感じで終わる。うん、「あきらめる」は素敵な言葉です。光を放ちます。
昔、「ゴロウ・デラックス」という、稲垣吾郎さんのテレビ番組に出演させてもらったことがあるんです。その頃、私が文豪のお墓参りを趣味にしていたものですから、夏目漱石と永井荷風のお墓を一緒にお参りして、それで、私自身のお墓をどうするか、っていうご質問をいただいたんですね。私は「墓石に『あきらめる』って彫りたいです」って答えたんです。そうしたら、稲垣吾郎さんが「でしたら、『あきらめる』っていう小説を書いたらいいんじゃないですか? そうすれば、自然に彫られるんじゃないですか?」というようなことをおっしゃったんです。それ以来、小説「あきらめる」を書いて、自然にお墓に彫られるような、有名なタイトルにしよう、と考えるようになりました。
そういうわけで、私はかなり力んでいます。お墓に彫りたいですから。「あきらめる」。
いや、みなさんには、あきらめたくないこともいっぱいあるでしょう。知っています。あきらめない方がいいこともありますよ! でも、あきらめたっていいことも、実は結構あるんです。
今の社会は、あきらめずにがんばった人ばかりが受け入れられる社会ではありません。あきらめた人も生きていけます。そういう小説です。
あなたも、何かをあきらめてみませんか? あきらめて、あきらめて、あきらめた先に、小さなキラキラした光が見えるかもしれません。実はこの社会、わりと優しいんですよ。あなたを受け入れます。
山崎ナオコーラ(やまざき・ナオコーラ)
作家。性別非公表。2004年にデビュー。目標は「誰にでもわかる言葉で、誰にも書けない文章を書きたい」。他の著書に、『美しい距離』『母ではなくて、親になる』『ニセ姉妹』『ミライの源氏物語』など。日常の社会派。趣味は育児。火星に持っていきたいものは、タブレット。
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著/山崎ナオコーラ