◎編集者コラム◎『ファイアマン』上・下 ジョー・ヒル 訳/白石 朗
◎編集者コラム◎
『ファイアマン』上・下 ジョー・ヒル 訳/白石 朗
「これ、デビルマンだ……」
いまやアメリカのホラー界では父親スティーヴン・キングと肩を並べる作家となったジョー・ヒル。その最新作『ファイアマン』の翻訳原稿を読み始めてすぐに浮かんだのが、昭和の名作『デビルマン』。読み進めるほどに、私の中で「ファイアマン=アメリカのデビルマン説」がむくむくと膨らみ、頭の中では「あれは誰だ、誰だ、誰だ……♪」と、あのテーマソングが鳴りっぱなし。子どもの頃に観た、他のアニメ番組とは明らかに異質な重厚で怖くて哀しい雰囲気が、一気に甦ってきてしまった。
『ファイアマン』は、人間が自然発火して死んでしまうという未知の奇病により、人類滅亡の危機が迫る現代アメリカが舞台。迫害された感染者達の人間模様と、その病に冒されながらも炎を操る力を身につけた謎の男〈ファイアマン〉が、感染者狩りをする敵と闘う姿を描いたパンデミック&ポスト・アプカリプス小説。ホラー、SF、ダークファンタジー、そしてアメコミ的要素もあり、ジョー・ヒルらしさ満載です。
ちなみに著者本人としては父キングの傑作『ザ・スタンド』を意識したとのこと。まさか、海の向こうの一編集者が勝手にこんな妄想を膨らませているとは思いもしないだろうなあ(でも、欧米で大人気の永井豪先生作品だから、ひょっとして著者も好きだったりして、なんてほのかな期待も抱いたりするのですが)。
ファイアマンは文字通り消防士の制服を着ている男性(注:本物の消防士ではない)ですが、不動明のように変身するわけでもなければ、デーモンに憑依されたわけでもない。それどころか、翻訳の白石朗さんも指摘していたのだけれど、炎を使えるという以外は実はそれほど強くない。素手では屈強な男にあっさり負けそうになったりする。けれど、手のひらから繰り出した炎(巨大なフェニックスにもなる!)で敵と闘うなんて、いかにも昭和のヒーローアニメか特撮ものっぽいじゃないですか。それにファイアマンは不幸な形で愛する人を失ったというトラウマを抱えていたり、弱者たちを助けているのに彼らから裏切り者扱いされる孤独者だったりと、どこか哀しい存在。そんな「苦悩するヒーロー」の姿とか、物語全体を覆う「世界の終わり感」は、やっぱりデビルマンだ! と勝手に決定(ジョー・ヒルさん、ごめんなさい)。
ちなみに本作は映画化が進行しており、監督には『トランスポーター』のルイ・レテリエの名前が挙がっているのですが、この方、実はあの『聖闘士星矢』の大ファンだとか。なんだかやっぱり『ファイアマン』、日本のヒーローアニメ臭がするではないですか!
カバーデザインをお願いした川名潤さんには「デビルマンのイメージで!」とムチャぶりし、「ならこの方がオススメ」と紹介頂いたイラストレーターのJUNNYさんに依頼したところ……!! 熱くて迫力満点で格好いい、予想を遙かに超える素晴らしく素晴らしいカバーが出来上がった。ホントに感無量です。
というわけで小学館文庫『ファイアマン』、ジョー・ヒルのファン、ダークファンタジーやSF、ホラーがお好きな方はもちろんのこと、子どもの頃ダークヒーローに胸を熱くした中高年の方々、そして今もヒーローものが大好きな「大きなお友達」も、ぜひぜひ手に取って読んでみてください。きっと痺れていただけることと思います!
──『ファイアマン』担当者より