横関 大『誘拐ジャパン』
最初で最後の誘拐モノ(たぶん)
誘拐モノを書きたい。ミステリー作家なら誰もが思うことであり、私も長年誘拐モノを書きたいと思っていた。私が愛する誘拐ミステリーは数多あるが、その中でも大好きな作品が天藤真著『大誘拐』である。個人的に好きなミステリーベストテンを選べと言われれば、必ず入れる傑作だ。日本ミステリー小説史上に燦然と輝く作品であり、それに異論を挟む者もいないであろう。私はデビュー時から「いつか横関版『大誘拐』を書きたい」という野望を秘かに抱いていた。
実はメインとなるアイデアについては、数年前に思いついていた。ただ、ラストのオチが確定せず、なかなか執筆に至らなかったという経緯がある。それが小学館の担当編集者と打ち合わせ中、天啓のようにそのアイデアが頭に浮かび、これはいけるのではないか、と思ったのだ。プロレスラーの故橋本真也さんのように「時は来た!」と叫びたかったが、昼下がりのカフェの店内は静かだったので、それはやめておいた。
長年の野望が叶い、こうして作品を世に出せるようになった。タイトルは『誘拐ジャパン』。私がこれまで書いた小説の中でもおそらく最長のものだが、それを感じさせないほどにスピーディーかつ読み応えのある作品に仕上がったという自負がある。
今回、作品を書いていて痛切に感じたこととして、私がイメージしている誘拐というものは、もはや過去の遺物であるという点だ。身代金? 暗号資産でもらえばいいじゃん。人質? 人を誘拐するの面倒臭いよね。誘拐という単語自体、死語になる日が来るのではないかと割と本気で思っている。
そんなわけで、私にとって最初で最後の誘拐モノになる予定である。マスコミ、政治、行政など、テーマは多岐にわたっているが、いろいろな意味で「旬」な作品になっている。是非ご一読いただきたい。
最後に一つ。本作品の装丁は装丁家の鈴木成一さんのご協力により、前代未聞のコンペ形式でとりおこなわれた。そのコンペにおいて最優秀作品に選ばれたものが、実際の装丁に採用されている。佐々木信博さんという新進気鋭のデザイナーによる力作である。是非手にとっていただきたい。
横関 大(よこぜき・だい)
1975年、静岡県生まれ。武蔵大学人文学部卒業。2010年、『再会』で第56回江戸川乱歩賞を受賞し、デビュー。著書に、映像化された「K2 池袋署刑事課 神崎・黒木」シリーズや「ルパンの娘」シリーズ、『忍者に結婚は難しい』『メロスの翼』『戦国女刑事』など多数。
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『誘拐ジャパン』
著/横関 大