金子ユミ『笑う四姉妹 ひとつの庭と四つのおうち』

私と笑う四姉妹
私のもっとも古い記憶は、二歳の時にさかのぼる。親戚一同で訪れた温泉で溺れた。大きい湯船に興奮し、ドボンと飛び込んでしまったのだ。ことのほか深く、温いお湯の圧がすべての音を遮断した、あの恐怖の瞬間を今でも覚えている。
そんな私の手を掴み、「溺れてるよォ~!」と引き上げてくれたのが母の二番目の姉だった。「何してんだ!」と仙台言葉で叫んだのが一番目の姉。「大丈夫なの?」とあわてたのが三番目の姉。
母には三人の姉がいた。
私の傍らには、いつも四姉妹がいた。
今回上梓した『笑う四姉妹 ひとつの庭と四つのおうち』は、母とその姉たち四姉妹をモデルにした。エピソードの9割は私の創作であるが、基本の設定はまあまあそのままだ。まあまあとあえていうのは、もちろん創作物としての合理性もあるし、私の視点からでしか四姉妹の人物像を描けないからである。
思えば、私は何ごとにも白黒つけたがる性格だった。この明快ながら単純な性格は、育ってきた環境が大きいように思う。
母と伯母たちは、一つの庭を囲むようにして、それぞれの家を建てて住んでいた(一番目の伯母だけは違ったが、それでも近所に住んでいた)。家を出て庭を突っ切れば、伯母たちやイトコが住む家がある。小学校低学年の頃は、学校から帰ると祖母と二番目の伯母(独身)が住む家で母が仕事先から帰ってくるまで過ごしていたし、両親に叱られると三番目の伯母の家に泣いて避難した。つまり、私は住居こそ違えど、ほぼ大家族のような環境で育ったのである。
私という人間を形成した一端は、明らかにこの四姉妹が担っている。吉と出たか凶と出たかは、私の判断するところではない。
この作品で何を書きたかったのかと自問する。
すると導き出された答えは、「残したかった」になった。
私にとっての四姉妹の記憶は、「笑う」。この四姉妹はとにかくよく笑っていたのだ。ことあるごとにどこかの家に集まり、宴を催してはドッカンドッカン笑っていた。大げさでなく、本当にドッカンドッカンと笑い声が弾けるのだ。皆さんにもお聞かせしたいほどだ。その笑い声には、日常のトゲトゲやグダグダをなんでもかんでも巻き込んで、するんと呑み込めるほど丸くなだらかにしてしまう、そんな力があった。
あの声を残したかった。
私はこの笑い声に受け入れられ、肯定され、大人になった。
皆さんの耳にも、四姉妹の笑い声が届いてくれたら嬉しい。
金子ユミ(かねこ・ゆみ)
2018年『アナタを瞳でつかまえる! 天然女子はカメラアイ!?』(マリーローズ文庫)でデビュー。他の著書に「千手學園少年探偵團」シリーズ(光文社キャラクター文庫)、『水底図書館 ダ・ヴィンチの手稿』(ポプラ文庫ピュアフル)、『女形と針子』(小学館文庫)などがある。