◎編集者コラム◎ 『女形と針子』金子ユミ
◎編集者コラム◎
『女形と針子』金子ユミ
編集者コラムをご覧いただき、ありがとうございます。『女形と針子』の編集業務を担当させていただきましたA田と申します。
突然ですが、皆さんは「男だからこうしなさい」「女だからこうしなさい」と言われたことはありますか?
表現の違いはあれど、家庭内や学校・職場などで「男たるもの」「女たるもの」と強いられていると感じたことがある人は、まだまだ多いのではないでしょうか。
本作の主人公である百多も、そんな中の一人です。
タイトルに「女形」とある通り、本作は歌舞伎、それも明治期の旅一座を題材とした作品です。
座頭の長女である百多は、亡き母に代わり裏方の仕事を一手に担い、一座を支えていました。百多の頑張りもあり、一座の評判は上々。ついには東京の大きな芝居小屋での興行が決まります。
しかしそんな中、人気の若女形である弟の千多が誰にも行き先を告げることなく失踪してしまいます。千多なしで次の興行は成り立ちません。そこで急遽、千多と背格好が似た百多が舞台に立つことになり――。
というように、本作では「女」を演じるため「男」に化けることを決意した百多の奮闘が描かれます。
百多は幼い時より芝居に出たい、役者になりたいという想いは持っていたものの、作中の時代では男女が同じ舞台にあがることが一般的ではなかったこともあり、その願いをずっと表に出せずにいました。
しかし弟に代わり舞台に立つうち、百多の心境に変化が生まれます。
「女だからこうあれ」「男だからこうあれ」、そうした慣習や思い込みで強いられた障壁に百多がどう立ち向かい、乗り越えていくのか。それが本作の読み所の一つになっていると私は感じました。
本コラム執筆のため著者の金子先生とはじめて打ち合わせをした際のメールを遡ったところ、メールの日付は2020年の10月でした。
本作の企画案はこの時にいただいたものでしたので、発売まで3年もの月日がかかりましたが、その年月に見合う作品が生まれたと思っています。
悩み苦悩しながらも大きな壁に立ち向かっていった主人公の姿が、同じく悩み・苦悩するかたの心の支えになれば、こんなにも嬉しいことはありません。
書店様店頭でお見かけの際は、ぜひご注目いただければ幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。
──『女形と針子』担当者より