◉話題作、読んで観る?◉ 第30回「朝が来る」
監督・脚本・撮影:河瀬直美/脚本:髙橋泉/音楽:小瀬村晶 An Tôn Thât/出演:永作博美 井浦新 蒔田彩珠 浅田美代子 佐藤令旺 田中偉登 中島ひろ子 平原テツ 駒井蓮 堀内正美 山本浩司 三浦誠己 池津祥子 若葉竜也 青木崇高 利重剛/配給:キノフィルムズ 木下グループ
10月23日全国ロードショー
映画オフィシャルサイト
直木賞作家・辻村深月の社会派ミステリーを、東京五輪の公式記録映画監督に就任した河瀬直美監督が映画化。ドキュメンタリーとフィクションとの境界のない、シームレスなドラマに仕立てている。
横浜で暮らす佐都子(永作博美)と清和(井浦新)夫婦は大企業に勤め、経済的には安定しているが、子どもには恵まれずにいた。長年の不妊治療を諦めた佐都子と清和は、「特別養子縁組」を斡旋している団体があることを知る。
ひかり(蒔田彩珠)は奈良の中学に通う普通の少女だった。同級生の巧から告白され、交際をスタート。両親が気づいた時には妊娠し、中絶できない段階となっていた。ひかりが産んだ赤ちゃん・朝斗は、佐都子たち夫婦に養子として引き取られる。
それから6年の歳月が流れ、朝斗(佐藤令旺)は利発な幼稚園児へと成長。佐都子たち夫婦は朝斗を中心に回る生活に幸せを感じていた。だが、そんなある日、朝斗の母親だと名乗る女性が「子どもを返すか、お金を用意してほしい」と電話で要求してくる。佐都子たちの前に、出産直後に一度だけ会ったひかりとは似ても似つかぬ女性が現われる──。
オーディションで選ばれた、ひかり役の蒔田彩珠の熱演に目が奪われる。役になり切るため、ロケ先の奈良の中学に通い、部活動にも参加。両親、姉役のキャストと共同生活を送った上で、撮影に入っている。尾野真千子、阿部純子ら実力派女優を輩出してきた河瀬監督作品ならではの徹底ぶりだ。14歳で妊娠・出産する少女の葛藤を、役づくりではなく、役と同化した上でカメラにぶつけてみせる。
特別養子縁組の説明会のシーンでは、実際に養子縁組を体験した養親や実親たちが登場する。原作を忠実に映画化しているが、原作付きのドラマではなく、ドキュメンタリー映画を観ているようなリアリティーがある。
核家族化が進み、福祉制度が整わない現代の日本では、子どもを育てることは容易ではない。朝斗を産んだことで厳しい人生を歩むひかり、朝斗を育てることで母親としての喜びを知る佐都子の生き方が、対照的に描かれている。ヘビィな内容だが、人と人との「つながり」を肯定したエンディングにわずかな希望を感じさせる。
(文/長野辰次)
〈「STORY BOX」2020年10月号掲載〉