☆特別対談☆ 森見登美彦 × 辻村深月[15年目の原点回帰]
2003年12月に第15回日本ファンタジーノベル大賞受賞作『太陽の塔』でデビューした森見登美彦さんと、2004年6月に第31回メフィスト賞受賞作『冷たい校舎の時は止まる』でデビューした辻村深月さんは、「ほぼ同期」だ。年齢は一歳違いで、「同世代」でもある。
相前後してデビュー15周年を迎える二人が、「STORY BOX」6月号よりそれぞれ新作をスタートさせる。15年間の作家生活を振り返りつつ、現在の心境について探り合ってもらった。
辻村
森見さんは対談集(『ぐるぐる問答』)を出されているくらいですから、対談の名手なんですよね?
森見
ええっ!?
辻村
二人で対談するのは初めてですが、今日は大船に乗ったつもりで来ました(笑)。
森見
僕の方こそ、です。文学賞のパーティーなどで辻村さんとお話ししていると、とても面白いんですよ。観察力というか「語り」による再現力が圧倒的で、小説の描写みたいにその時の状況が、まるで目に見えるように喋り言葉で組み立てられている。「さすが小説家だ!」と、いつも感動させられているんです。
──お二人は先ごろデビュー15周年を迎えた「ほぼ同期」ですが、お互いの存在に気付いたのはいつ頃ですか?
辻村
私は『太陽の塔』が出てすぐの頃です。ファンタジーなんだけど、異世界を舞台にしたハイファンタジーじゃないし、現実の京都が舞台だけど現実ではない。初めて読むジャンルだ、と衝撃を受けたことを覚えています。
森見
「なんとかこれをファンタジーと認めてくれ」という思いで、日本ファンタジーノベル大賞に応募したんです。
辻村
そして、森見さんの登場により実際にファンタジー小説の幅が広がった。すごいことですよね。
森見
辻村さんはミステリの賞がご出身ですよね。僕はもともとミステリをそんなに読んでいなくて……。
辻村
存在は知っていてくださったんですか?
森見
お名前は存じあげていましたよ。ただ、自分は現代のミステリどころか現代の小説を読むまでに至っておらず、まだ昭和の前後をうろうろするような読書をしていたんです。
辻村
それでも私の存在を知ってくださっていたなんて嬉しい。
森見
僕もさすがに本屋さんには行きますから(笑)。初めて辻村さんの作品を読んだのは、デビューして数年経ってからだと思います。最新刊を読み始めたのは、野性時代フロンティア文学賞の選考委員を一緒にやるようになってからですね。
辻村
2015年度からですから、選考会はこの間で五回目でした。私たちは同期でありつつ、同僚なんですよね。
森見
辻村さんともう一人の選考委員である冲方丁さんは、同世代の中でも最前線で戦っている巨大な存在です。お二人と一緒に選考するという立場は毎回、場違い感がものすごい。僕はどうも「自分はプロだ」という実感が乏しくて。新作を書く時も、まるで毎回ファンタジーノベル大賞に応募しているような感じがするんですよ。素人臭さというか、もたもた感がある。
辻村
もたもた感って、いい言葉ですね(笑)。森見さんとは基本的に年に一度の選考会と、受賞作が出た場合の授賞式でお会いするだけなんです。でも、年に数回しか会わなくても、連絡先を知らなくても、勝手に友情を感じています。
森見
僕は図書館に就職した時、職場の同期がたくさんできたんですが、退職してしまってそういった存在がいなくなってしまったなあと思っていたんです。でも、そこから作家として何年か過ごしていくうちに、同業者にも同期と呼べる人たちがいることに気が付いて、「ここにもいるんだなあ」と思ったんですよ。心強かったんです。
辻村
作家って孤独な仕事ですけど、同期や同僚のような存在の作家さんが出した作品だとか創作の姿勢を見ていると、力をもらえるんですよね。15年間で一番手に入れられて嬉しかったのは、その関係かもしれないです。