菅原美保『特殊清掃人グレイス・マクギルと孤独な死者たち』

彼女が放つ問いにあなたは答えられるか?
グレイス・マクギルは内気で人と話すのが苦手な性格。自己肯定感も低く、ひっそりと目立たないように生きている。でも特殊清掃人という仕事──臭くて汚くて危険で、偏見や嘲笑にさらされることもある仕事──には誇りを持っており、孤独死の現場を誰よりも完璧に原状回復できると自負する。死者を深く思いやり、その尊厳をあくまで守ろうとする気持ちもこの上なく強い。
物語は、グレイスが清掃先で見つけた過去の新聞に、なぜか興味を覚えたことからはじまる。同じ日付の新聞が数年分、きれいに積み重ねられていた。その日付は何を意味するのか? 故人にとって大切な日付だったのか? ところが、そこに秘められた謎を追ううちに、電話で脅迫されたり、不審人物に尾行されたりするようになる。それでも、死者の魂に促されるのを感じながら、危険を冒してまで真実を掘り起こそうとし……
全編グレイスの視点から語られており、彼女が人に話す言葉と、心の内側でこっそりと吐く本音や毒舌や暴言とが、しばしば対比する形で並べられているのが面白い。いつもは身を小さくしている彼女が、たまに大胆かつ突拍子もない行動に出るのも、笑い、そしてときには物悲しさを誘う。いっぽうで、答えに詰まるような問いを、読む者にいきなり突きつけてくることもあるので、なかなか油断がならない。
グレイスは清掃作業をするたびに、死者が長期間発見されないまま放置されていたことに怒りを感じる。故人を思いやる人は誰もいなかったのか? 心配して様子を見に来る人はひとりもいなかったのか? 「孤独な死はときに、孤独な生からの解放を意味します」というグレイスの言葉は重い。著者はこうした孤独死の問題とともに、実はもうひとつ、大きな問題を浮き彫りにしている。それが何であるかは、ぜひ本作を読んで確かめてほしい。
なおこの小説は、遺品整理人・小島美羽さんのミニチュア作品から着想を得て書かれている。小島さんのミニチュアは海外のメディアでも広く紹介されているので、それが著者の目に留まったらしい。グレイスの仕事への取り組み方や死者に対する気遣いには、小島さんの姿勢が反映されている。ただし、グレイスやその家族の人物像は著者のまったくの創作であることを、念のためお断りしておきたい。
菅原美保(すがはら・みほ)
広島県生まれ。国際基督教大学教養学部社会科学科卒業。訳書にアレックス・ノース『囁き男』、ダグ・ジョンストン『ダークマター スケルフ葬儀社の探偵たち』(以上、小学館文庫)など。別名義でビジネス関連書や児童書などの訳書もある。




