田口幹人「読書の時間 ─未来読書研究所日記─」第38回

田口幹人「読書の時間 ─未来読書研究所日記─」

「すべてのまちに本屋を」
本と読者の未来のために、奔走する日々を綴るエッセイ


 2025年を振り返る時間も取れないうちに、あっという間に新年を迎えてしまった。
 少し遅くなりましたが、本年もどうぞよろしくお願いいたします。

 年々月日が経つのが早くなると感じる。なぜなのかと調べてみると、諸説あるようだ。
 そのひとつに、ジャネーの法則という心理的な現象によるという俗説があった。年齢を重ねるほどに、人生の1年を占める割合が小さくなり、その分時間が過ぎるのが早く感じられるというものだ。ほかに、大人になると子どもの頃のような新鮮な体験が少なくなったり、脳の情報処理が効率化されて記憶に残る出来事の数が減ることも理由とされているのだそうだ。この感覚を和らげるには、新しいことに挑戦し、日々の体験に新鮮さを取り入れることが大切である、とある本に書かれていた。
 たしかに新鮮な体験は年々少なくなっていく。これまでの積み重ねの延長で仕事をしている自分に気付かされる。過去の積み重ねの延長に未来は続いていると思い込み、それが新しい可能性の芽を摘んでいるのかもしれない、と感じる今日この頃である。
 もう少しだけ個人的なお話を。先日の健康診断で目の病が見つかった。2025年に入り、字が見えづらく、本を読むスピードが遅くなるなど、急激に左目の視力が落ちていることは薄々気付き、目の不調が読書から離れるきっかけになりえるな、と考えるきっかけになった。今年から治療を始めるつもりでいるが、視力が戻ってくれるといいな、と期待しているものの、どうなることやら。
 みなさん、くれぐれも目を大切にしてくださいね。楽しい読書生活が続きますように。

 私事はここまでとして、2026年の出版業界で注目しておきたいふたつの動きについて書いていきたい。
 2026年は、出版物流が抜本的な改革を迫られる1年になるだろう。
 2025年6月に「貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律」と、この改正の規定を実効性のあるものとする「貨物自動車運送事業の適正化のための体制の整備等の推進に関する法律」が成立した。ふたつの法律は一体的に運用され、いわゆる「トラック新法」と呼ばれている。成立後、この「トラック新法」が出版物流に与える影響をどのように考えるかが昨年後半の出版業界の話題の中心だった。
 出版物の運賃は他業界と比べて低い水準に設定されている。低運賃が出版物流を支えているのが現状である。出版物の国内流通額が下げ止まらない中、価格決定権者である出版社は出版物の大幅な値上げに踏み切ることができない状況にある。出版物の価格は上昇傾向にあるが、資材費や人件費の高騰に起因するものであり、他業界と比べても値上げ幅は低いのが現状である。
 トラック新法で規定され、3年以内に施行されることから、おそらく2028年4月からは運賃・料金の適正原価を下回らないことが義務化されることになる。施行されれば、配送運賃は現状の約2倍になるとの試算もある。
 書店に本が届きにくくなる可能性があり、新刊発売の遅れが生じる地域が発生すると危惧されていた「物流2024年問題」については、実際に遅延が発生した地域はあったものの、関係各社の努力により、全国各地の書店に毎日本が届く当たり前の光景を維持することができている。
 一方で、こんな時代だからこそ、従来の物流に固執しない、新しい出版流通と出版の形が生まれてくるのではないか。それがどんな形なのかは僕にはわからないが、確実にこれまでとは違う出版の形が広がりつつある状況に期待しているところである。

 そんな中、昨年、「独立書店ネットワーク」という新しい業界団体が立ち上がった。
「独立書店ネットワーク」とは、「実店舗を持ち新刊を扱う」という条件で加盟する、全国の小規模・個人経営の書店(独立書店)が、業界の課題解決や持続可能な経営を目指して連携する、ゆるやかな業界団体だそうだ。これまでの取次を介した低粗利率の出版流通の商習慣に疑問を呈し、出版社と直接交渉して仕入れ条件の改善を図り、書店経営の収益性向上を目指しているという。
 減少する書店数や厳しい収益構造に対し、情報共有や共同での取り組みを通じて改善を目指し、従来の流通構造から脱却し、書店が直接出版社に発注する仕組みを強化し、本の利益分配率を見直すことで、書店の収益を改善につなげるという動きである。
 チェーン書店などの本部機能とは異なり、店主の個性や哲学に基づいた独自の選書を行い、本との出合いを重視する点が違いになるのだろうか。加盟店は、1人から数人で経営する小規模書店が多く、カフェ併設型など多様な形態を含み、2025年10月時点で90店が加盟しており、その後も増えていると聞いている。
 このような前向きな活動が、書店起点で動き出すことはすごく意義があることだと思う。「独立書店ネットワーク」のように、様々な課題やリスクについても、本屋が主体的に引き受けることから始める覚悟があってこそ、少しずつ新しい出版流通の芽が育ってくるのだろうと考えており、このような動きを心から応援している。

 2028年4月以降の出版業界はどうなっているのだろうか。改革、変革は待ったなしである。その改革、変革の方向性が決まってくるであろう2026年は、出版業界にとって大事な1年ということになる。


田口幹人(たぐち・みきと)
1973年岩手県生まれ。盛岡市の「第一書店」勤務を経て、実家の「まりや書店」を継ぐ。同店を閉じた後、盛岡市の「さわや書店」に入社、同社フェザン店統括店長に。地域の中にいかに本を根づかせるかをテーマに活動し話題となる。2019年に退社、合同会社 未来読書研究所の代表に。楽天ブックスネットワークの提供する少部数卸売サービス「Foyer」を手掛ける。著書に『まちの本屋』(ポプラ社)など。


「読書の時間 ─未来読書研究所日記─」連載一覧

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