森 バジル『探偵小石は戻らない』

森 バジル『探偵小石は戻らない』

続の壁


 続編にはずっと憧れていた。
 2019年にライトノベルの新人賞をもらって初めて本を出せることになったとき、2巻を出すことが何よりの目標だった。2巻以降でやりたいことは有り余るほどあった。新人賞に応募する前からずっと、通勤中の道端や夜の風呂場やベッドで眠りに落ちる前の暗闇で、どんなストーリーにしよう、どんなキャラクターを出そう、と想像を膨らませていた。必ずこの空想たちを形にしたい、と思っていた。発売1週間後に続刊不可の連絡をもらったとき、あまりの速度とあっけなさに感情が追いつかなかった。考えていた展開も人物も全て捨てるしかないが、空想の捨て方は誰も教えてくれない。

 だからこそ、『探偵小石は恋しない』の続編を書けると決まったときには、嬉しかった。同じ世界同じ人物の、違う物語を書ける。
 だが、続編のプロットを考えようとすると──手が止まった。
『探偵小石は恋しない』を書いた時点では続刊なんて頭に一切なく、どうこの作品を綺麗に終わらせるかという課題に全霊で挑んでいた。さらに言うと、〝絶対に事前情報なしでお読みください〟という強いフレーズを打ちだして売り出してもらった。そんな作品の第2巻で何をやればいいのか、全く分からなかった。
 前作から失速したと思われたら。前作で好きだった要素がなくなったと言われたら。何かアイディアを思いついたとしても「これは弱い」「これはもう誰かがやってる」と、自分で却下してしまう。プロットの締切を3回か4回は延ばしてもらった気がする。何を書けばいいのか分からないまま、時間だけが過ぎていく。
 そうしてうだうだと悩み続け、もう悩み飽きたよ、となったところで、急に気づいた。
 前作のラストシーンで、当然ながら物語は終わっているが、作中世界での小石と蓮杖の生活は続いていく。どんな終わり方をして余韻を生み出したとしても、作中の人物たちは布団に入って眠り、翌朝には起きて、歯を磨いたり寝癖を直したり化粧をしたりする。
 だったら、その続きを、まっすぐ書けばいいだけのことだ。
 そう気づいてから、ようやく手が動き始めた。
 タイトルの『探偵小石は戻らない』も、さらっと浮かんだ。

 それはそれとして、絶対に前巻と比較されづらい形にしたいという強迫観念はあったので、構成はがらっと変えた。先行作はあるものの、とてもじゃないが一般的とは言えない構成だ。書いている最中、もう二度とこの構成にはしないと何度も(本当に)口に出して言った。どんな構成なのか、なぜその構成を選んだのか、ぜひ読んで確かめてほしい。

  


森 バジル(もり・ばじる)
1992年宮崎県生まれ。九州大学卒業。2018年、第23回スニーカー大賞《秋》の優秀賞を受賞。23年、『ノウイットオール あなただけが知っている』で第30回松本清張賞を受賞し、単行本デビュー。25年に刊行した『探偵小石は恋しない』で2026年本屋大賞第8位、ミステリ好きの読者が選ぶMRC大賞2025第1位、ミヤボン2025大賞受賞。他の著作に『なんで死体がスタジオに!?』がある。

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探偵小石は戻らない

『探偵小石は戻らない』
著/森 バジル

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