◎編集者コラム◎ 『浄瑠璃長屋春秋記 照り柿』藤原緋沙子
◎編集者コラム◎
『浄瑠璃長屋春秋記 照り柿』藤原緋沙子
ついについに──人気時代小説作家の藤原緋沙子先生が小学館に初登場です!
しかも、記念すべき時代小説文庫の創刊ラインナップに入っていただける、この無上の喜びを、ぜひ読者のみなさまと分かち合いたい!
ということで、ひとつ『浄瑠璃長屋春秋記 照り柿』のご紹介をさせてくださいませ。
さて、本書の主人公・青柳新八郎は、とある事情がありまして、陸奥国は平山藩から遥か彼方の江戸までやって来たのでした。
気になる「とある事情」はというと、三年前に失踪したまま、行方知れずになっている妻の志野を探すため……。とは、なんとも泣かせる話ではありませんか。なにしろ、わざわざ弟の万之助に家督を譲ったうえに、浪人になってまで、探しに来ているのですから。
いったい夫婦の間に何があったのか? さすがに本書は一巻目、おいそれと理由を明かすわけにはいきません。どうか最終巻をお楽しみいただく、平にご容赦を。
その夫婦間に何かがあった、一途で健気な新八郎は、浄瑠璃長屋の裏店に住み、『よろず相談承り』と墨書された看板をさげて、口を糊しています。ですが、この宣伝文句、一見して誰もがいぶかしむのではないでしょうか。どんな仕事なのだろうかと。
ご明察の通り、『よろず相談承り』は便利屋のような仕事なわけですが、そんなあいまいな稼業で食べていけるほど、世の中甘くはないわけでして。
なかなかお客人が現れない新八郎は、とうとう米櫃の底が見えてきて、深いため息を吐いたり、吐かなかったり。
そんなある日のこと。捨てる神あれば拾う神ありというもので、妻と三人の子をガマの油売りで養っている浪人・八雲多聞が新八郎に仕事を紹介してくれるのです。
この八雲多聞、地回りに絡まれているところを新八郎に助けられたのですが、恩義を忘れないところがえらい。そして、損得勘定なしで多聞を救った新八郎も素晴らしい。結句、巡り巡って、新八郎自身に生活の糧をもたらしました。
「情けは人の為ならず」を地でいくわけですが、まさしく、これぞ江戸の人情。珠玉の本作にちりばめられた、大小取り揃えた悲喜こもごもを、ぜひご堪能ください。
え、どんな仕事を紹介したかって? それは読んでのお楽しみということで。