◎編集者コラム◎ 『国会議員基礎テスト』黒野伸一
◎編集者コラム◎
『国会議員基礎テスト』黒野伸一
文庫化に際して、いま、「政治」をとりまく雰囲気について一言であらわすと「諦念」じゃないかと思っています。あの、国会を取り巻いたデモの熱気も、どこかへ行ってしまいました。
「桜を見る会」の首相への追求が数ヶ月も続いています。野党から申し開きのできない証拠をつきつけられても、非を認めることはなく、申し開きを続けているのです。政権の支持率が高ければ、日経平均株価が高ければ、なにをやっても許されると言わんばかりです。
そんな長期政権の有り様は、日本人を敵と味方に分断してしまったように思えてなりません。だからか、とくにウェブ上で政治的な意見を言うことがはばかられます。
本書『国会議員基礎テスト』の企画が生まれたのは、『脱・限界集落株式会社』の打ち上げの席上でのことでした。著者の黒野伸一さんが発した「国家公務員も、裁判官も、難しい試験を突破しなければならないのに、政治家は選挙だけなのはおかしい」という疑問が発端でした。号泣県議が話題になった頃の話です。
しかし、著者も私も、政治に関してはまったくの素人。まずは、取材ということで、国会を見学することからスタートしました。その際、集団的自衛権へ転換する安保法案が、野党の怒号飛び交う中で強行採決されたことを憶えています。学生を主体としたSIELDsを中心に、国会を取り巻くデモも話題となりました。
多くの政治家に取材しました。彼らは皆、真面目に「日本をよくしたい」とおっしゃっていました。
さらには、単行本の校正中に衆議院選挙がスタートし、私の高校の同級生が出馬することになりました。事務所に通い、選挙戦のリアルを取材し、それは初期に取材した政治評論家から訊いていたことでしたけれど、"自分の名前を書いて投票してもらうこと"がいかに難しいのかを実感する体験でもありました。
酒飲み話からはじまった企画は、単に政治家を揶揄するパロディではなくなっていきました。仕上がった原稿は、「政治とはなにか」という基礎からスタートし、圧巻の選挙戦で幕を閉じる、楽しみながら政治の知識が身につく恰好のエンタテインメントとなっています。
本書をつくって、つくづく考えさせられたのは、「国民は、自らのレベルの国会議員しか持てない」ということです。あきらめるのではなく、本書をきかっけに、政治や国会議員について考える機会となれたらと願っています。