ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第156回

ドラマが無事完結した。
私はとにかくなにかが
私の漫画が原作のドラマが無事完結した。
ここ数か月、無事はじまるのか、そして死傷者を出さずに終われるのか、そればかり考えてきた。
言うまでもないが、死も傷も起こるとしたら私に起こるし、両方という可能性もある。
逆に言えば、終わったあとのことを何も考えていなかったため、私の心に今すぐなろう小説がはじまりそうな大賢者が出現してしまっている。
無事終わり、そして日常が戻りつつあることが意外なため、担当からの「そろそろ次の原稿をよこせ」という、親の年金明細よりも見た通知を受けて「予想外」とすら感じている。
しかし、祭は祭で楽しくつつがなく終わり、日常がボットン便所のおつりのように返ってきた、という現状は、考え得るかぎり最高の結果と言ってもいいのかもしれない。
私はとにかく、何かが起こることを恐れていた。
そもそも漫画の実写化というのは事故率が高いのだ、道や建物だったら確実に立ち入り禁止になっており、たまにユーチューバーが侵入して全滅するホットスポットである。
それでも侵入者は減るどころか増え続けており、バズる動画撮影成功率も上がっては来ているのだが、今でもテニサーが肝試しに来て死者3名、SAN値ゼロ2名を出す事故が珍しくない世界なのだ。
しかも今回は原作が私の漫画なのだ、事故る前に用意した車が事故車なのである。
バンパーを引きずりながら登場した車に、有名俳優や有名脚本家を乗せ、魔の交差点に突っ込んでいく様を、車を貸した原作者が正気で見送れというのも無理がある。
まだ私の用意したメーカー最安値の軽をバニング化し、浜崎あゆみパイセン、または八代亜紀ネキのペイントを施すなど、魔改造してくれれば「これだけ原型がないのに原作者欄に私の名前を残してくれてむしろありがたい」と思えただろう。
しかし、想像以上に私の車の原型を残したまま発進してしまったのである。
おそらく、実写化するにあたり原作ファンにとっての一番の懸念は「俺の大好きな原作が何もわかってないテレビ野郎にメチャクチャに改変されるんじゃないか」という点だろう。
だが、私にとっての一番の懸念材料は「かなり原作通り」という点だったのだ。
原作改変で評判が悪ければ結果論で「改変のせい」と言えるのだが、そのままでやってダメなら「つまらぬものにつきあわせて悪かった」と言って、斬鉄剣で割腹せざるを得ない。
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