ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第52回

ハクマン52回紙の本にも良さはある。だが、
電子で漫画を読む人の方が
増えているのは事実である。

現在2度目の緊急事態宣言が発令されているはずである。
とは言っても、我が県は政府に最後まで忘れられている47都道府県目の座を、いつも鳥取あたりと競っている強豪県なので当然発令されていないのだが、じゃあどこで発令されているかと言われるとイマイチ判然としない。

このように前回に比べて今回の緊急事態宣言は全く盛り上がっていない。もし前の盛況を見越して緊急事態宣言Tとか作っていたら大変なことになっていたと思う。

ちなみに、私は前回の緊急事態宣言直前に漫画の単行本の第1巻目が発売されて大変なことになったのだが、今回めでたく2巻目が緊急事態宣言下で発売するという順調なステップアップを見せている。
これは私だけではなく、第1回目の緊急事態宣言時に単行本が出た人間は大体2回目の緊急事態宣言に次の単行本が出ていたりする。
よって「単行本が2巻とも緊急事態宣言にかぶった!こんな作家他におる~!?」とツイッターで嘆いている漫画家が推定300人はいると思われる。
コロナの影響を受けていること自体全然珍しくないが、どうせならそれをネタにしてしまおうという発想も全く新しくないため、この時点でコロナに関係なく売れないと思う。

そして、おそらく緊急事態宣言がかぶって大変です、と言っている300人の内320人は「実はそんなにコロナ関係ない」ということにも気づいているのではないだろうか。

まず、前にも言ったが、コロナ全盛期に発売した本が全て3部しか売れてないかというと、同じ条件下でも、3部しか売れてない組と300万部売れている組、そして元々3部しか発行されてない組にちゃんと分かれているのである。

もちろん「コロナのせいで本が売れなかった」というのは嘘ではない。嘘ではないが、言葉が足りない、というのも事実であり、正確には「平常時でも売れない本がコロナのせいでさらに売れなかった」というのが正しい。

しかし、コロナの影響で書店が閉まり、流通が滞ったため、紙の本が売れなかったのは事実だが、漫画には電子書籍というものがある。
何せ漫画ゴラクでも電子化するレベルであり、まさかと思って調べたら漫画ローレンスも電子版が存在した。
あれをスタバで、持つところがアツくないように紙が巻いてあるカップ片手にアイパッドで読めてしまうというあの日夢見たサイバーパンク時代がすでに到来してしまっているのだ。
そしてコロナの影響により、室内で一人で楽しめる娯楽の需要が高まった。
つまり、FANZAには一歩及ばないが、漫画も紙の本は売れない一方で、電子書籍の売り上げは上がっているはずなのである。

カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

【「2020年」が明らかにしたものとは何か】坂口恭平『自分の薬をつくる』/いま精神の「アウトプット(解放)」が必要だ
◇自著を語る◇ 森岡督行 『荒野の古本屋』