『オルタネート』加藤シゲアキ/著▷「2021年本屋大賞」ノミネート作を担当編集者が全力PR
〝青春〟をアップデートする。
悪意が溢れる時代に、現代的でありながらも、あくまで等身大の青春を描いてみせる。その真っ当であることを恐れない姿勢こそが『オルタネート』、そして加藤シゲアキという作家の最大の魅力であると思います。
小説の内容を乱暴に要約してしまうと「高校生限定のマッチングアプリがもたらす男女の人間模様を描いた群像劇」とでも言い表せるのですが、本作の場合、上記から連想されるような(よくある)「SNSによるいじめ、誹謗中傷」や「スクールカースト」といった、青少年の〈負〉の側面には重きが置かれません。
〈オルタネート〉という近未来のマッチングアプリ(SNS)が舞台装置として設定されていますが、現代的なツールを通して加藤氏が描きたかったのは「他者と繋がる」そして「自己と向き合う」といった、誰しもが通過儀礼の如く経験したプリミティブな感情であり、作中でもそうした10代記憶の断片がリアルに、丹念に、時に熱い筆致で語られます。そのうえで、それらが決して「青春小説あるある」の類型に陥ることなく、かといって決してデオドラントなものでもない、登場人物の息づかいが聞こえてくるような生々しさを伴いながら読者に迫ってきます。
私たちは人の悪意というものに、新聞やニュースアプリ、SNSなどを通して、日常的に、また意図せずとも触れてしまえる環境に身を置いているわけですが、そんな、健全を語ることが難しい時代において、毒に頼ることなく、あくまで伸びやかに、そして小説として面白く(ここ重要!)、いまの青春を肯定して描いてみせる。その、現実に対するしなやかな態度と物語への真摯な姿勢が『オルタネート』という作品を普遍的にして新しい小説たらしめたのだと思います。
若者というのは時に、脆く、弱く、不安定であるかもしれないが、しかし、大人が思うほど愚かな存在ではないのだと、作品を通じて訴えかけられているようでもあり、また、そうしたメッセージの根底には、加藤氏の人間というものに対する信頼感や穏やかな眼差しを感じ取ることもできます。
閉塞感漂ういまだからこそ、読んで欲しい作品です。ぜひ、鮮烈にして豊穣なエモの渦に呑まれてみてください。
──新潮社 出版部 村上龍人
2021年本屋大賞ノミネート
『オルタネート』
著/加藤シゲアキ
新潮社
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