◎編集者コラム◎ 『きみはだれかのどうでもいい人』伊藤朱里

◎編集者コラム◎

『きみはだれかのどうでもいい人』伊藤朱里


『きみはだれかのどうでもいい人』

 タイトルの破壊力が、まず凄まじいです。著者の口からこのタイトルを候補の一つとして聞いたとき、鳥肌が立ちました。これしかない、と思いました。

 

 男、女、「性別による役割の違い」とか、あれや、これや、身に覚えのある嫌な経験たち。ネットニュースや SNS だけでなく、ドラマや小説でも、テーマとして描かれることが増えました。この作品は、同じ職場に勤める4人の女性、それぞれの視点から見えている景色を描いた小説です。男女の性差がテーマ、のようにも一見思える今作ですが、実は違います。男女の性差にとどまりません。

 生々しくて、嫌になるほど見覚えのある、「人間」同士の差異が軸になっているんです。

 

 ひとところに無造作に集められた多数の人間が、共同作業をしたり、一つの目的に向かって活動する。大人になると、働く職場はその代表例です。特に気が合うわけでも選んだわけでもない者同士、場合によっては隣の席に座り、長い時間を共にすごすことになる。それぞれが持つ人生模様や過去については、ほとんど共有されないまま……。

 

 それでも人は気まぐれに、一緒に過ごす他人のことを、理解したいと考えます。きっと、ふとした暇に。でも、人のことを理解するのは、そんなに容易いことではありません。理解できていると思っている人が、全然知らない一面を持っていたりします。それで、近づいては想定外のタイミングで傷つけられたりして。それなのに懲りずにまた向かっていってしまったりして。でも結局、あの子はあなたのことが「どうでもいい」。そしてあなたも、あの子のことなんて「どうでもいい」。最初から他人ですから……。

 人とわかり合うことは、本当に難しいですね。

 

「きみはだれかのどうでもいい人」、隅から隅まで共感の嵐で一気読み。ままならない日常が、そのまま人生なんだろうな、と悟るようなことを思いながら編集しました。

 ぜひこの文庫化を機に、お読みいただけましたら幸いです。

──『きみはだれかのどうでもいい人』担当者より

きみはだれかのどうでもいい人

『きみはだれかのどうでもいい人』
伊藤朱里

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