葉真中 顕 ◈ 作家のおすすめどんでん返し 14 (最終回)

1話4ページ、2000字で世界が反転するショートストーリーのアンソロジー『超短編! 大どんでん返し』が売れています。執筆陣が、大ヒットを記念して、どんでん返しを楽しめる映画やアニメ、テレビドラマ、実話怪談など、さまざまな作品を紹介してくださいました! ぜひチェックしてみてください。


作家のおすすめどんでん返し 14
予言されていた後出し

葉真中 顕 

 フェアか、後出しか、それが問題だ。いや、問題じゃないかもしれないけど。

 何の話かと言えば、どんでん返しの仕掛けの話だ。フェアつまり公正などんでん返しとは、きっちり伏線が張られており、種明かしされたときに「なるほど!」と膝を打てるようなどんでん返し。後出しは、その逆で伏線なしの意外な展開で驚かせるどんでん返し。まあ、私の勝手な分類なんですが。

 一般的には前者のフェアなどんでん返しの方が「よくできている」と言われがちだ。ただし、フェアであればあるほど、注意深く話を追っていると仕掛けがわかるようになる。もちろん、仕掛けを見抜く喜びもあるだろうけれど、純粋にどんでん返しの快楽を味わうためには、あまり身構えないで話を追った方がいいと思う。

 その点で、よく映画の宣伝である「あなたはきっと騙される」みたいなやつは罪作りだと思う。あとまあ、小説の帯とかも。本格ミステリのように、ある程度推理しながら読むことを前提にしている作品なら作者との知恵競べとして楽しめるだろうけど、そうじゃないタイプの作品で、特に叙述トリックを使っている作品の帯に騙され系のアオリを入れるのは個人的には……ゴニョゴニョ(この世には、書きづらいこともある)。

 閑話休題。そんなわけで、フェアなどんでん返し作品は、よくできてるものほど「どんでん返しがあるよ」と紹介しにくいジレンマがある。一方の後出しのどんでん返し作品は、その心配は少ない反面、伏線が弱いだけに白けやすい。「作者の胸先三寸」「何でもあり」と言われればそれまでだ。アンフェアな後出しそのものを嫌う人も一定数いる。けれど個人的には、後出しが上手くキマったときの衝撃、サプライズの快感は、フェアなそれを凌駕することがあると思っている。

 そんなわけで本稿では後出しの傑作映画をオススメしようと思う。ぱっと思いつくのは『13日の金曜日』『DEAD OR ALIVE 犯罪者』『ミスト』あたりだろうか。

『13日の金曜日』は今やホラー映画の古典と言ってもいい作品で、結末のサプライズもあまりにも有名なので、今更感が半端ないかもしれない。ただ、後出しの出し方としてはやはり惚れ惚れする見事さがある。私は小学生の頃、テレビでたまたま途中から観たのが初体験だったが、結末では比喩ではなく本当に跳びあがった。1980年公開の本作は、今の30代以下だと逆に観たことないという人も少なくないかもしれないが、一生に一度は観て損はないと思う。あ、若かりしケビン・ベーコンが「セックスして殺される役」で出てて微笑ましくもあります。

『DEAD OR ALIVE 犯罪者』は、三池崇史監督の1999年公開の作品。哀川翔、竹内力というVシネ二大巨頭の共演……以上に結末が話題になっており、評判を聞きDVDで観た私はかなり身構えていたのだが、それでも度肝を抜かれた。後出しの「何でもあり」は必ずしも欠点ではない。想像力の本質は飛躍と破壊だ。何でもありだからこそ、理性では到達できない景色を見せてくれることがある。本作はその魅力を存分に堪能できる作品である。

 そして『ミスト』である。2007年公開。監督フランク・ダラボン、原作スティーブン・キング。『ショーシャンクの空に』『グリーンマイル』と同じ「間違いない」座組で、期待値も高く私は公開されてすぐ映画館で観た。

『ミスト』は、主人公をはじめとする人々が霧とその中に潜む怪物に包囲されたスーパーマーケットに閉じ込められるという話。怪物の恐ろしさ以上に、極限状況での人間の恐ろしさが描かれるという点でジョージ・A・ロメロの『ゾンビ』と同系統のパニック・ホラーと言えると思う。

『ゾンビ』で人々が閉じ込められるショッピングモールが当時のアメリカの消費社会の象徴として描かれていたのと同じように、『ミスト』においても、スーパーマーケットの中は、利己的な法律家や狂信的な宗教家がのさばるアメリカ社会の負の縮図となっている。この部分はキングの原作小説『霧』をほぼ踏襲しており、見どころの一つになっているのは間違いない。もし2020年代の今、映画化するとしたら、BLM や#MeToo ムーブメント、そしてコロナ禍などを意識したアレンジを加えるだろうか、などと想像も膨らむ。

 しかし、この映画を傑作たらしめているのは、原作にはない強烈な後出しのサプライズが用意されているラストだろう。

 まあ、なんというか、大変、性格が悪い。初見のときあまりのことに私はエンドロールが終わってもしばらく席から立てなかった。

 本作のサプライズは典型的な「後出し」だ。脚本上、都合よく配置されたタイミングと行動によって、観る者を驚愕させる展開になる。この結末を合理的に導くような伏線はない。

 ところが、である。実はよくよく観返してみると非合理的なやり方でこの結末は予言されているのだ。

 もしこの映画を観たことのある人は、スーパーマーケットの中で狂信者のクソババアが何て言っていたか思い出して欲しい。

 まだ観ていない人もいるだろうから、何がどういう形で予言になるのか、詳述は避けるが、いやはや、やはり性格が悪い。とにかくクソババアの台詞に注目して観ることをオススメする。

 思えば『ショーシャンクの空に』も『グリーンマイル』も、感動作と言いつつエグい描写は結構あった。むしろこの『ミスト』こそが、キング+ダラボンの組み合わせの真骨頂が発揮されていると思う次第である。


葉真中 顕(はまなか・あき)
1976年東京都生まれ。2013年、第16回日本ミステリー文学大賞新人賞作『ロスト・ケア』でデビュー。19年『凍てつく太陽』で第21回大藪春彦賞、第72回日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)を受賞。著書に『絶叫』『政治的に正しい警察小説』『Blue』『そして、海の泡になる』『灼熱』(9月24日発売)など。

超短編!大どんでん返し

『超短編! 大どんでん返し』
編/小学館文庫編集部

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