◎編集者コラム◎ 『書くインタビュー4』佐藤正午

◎編集者コラム◎

『書くインタビュー4』佐藤正午


 佐藤正午さんの『書くインタビュー4』が発売になりました。

 この一文、念のためひとつひとつ説明します。
 まず【佐藤正午さん】。念のためです、小説家の名前です。ただいま大ヒット上映中の映画『鳩の撃退法』の原作者で、2015年にはこの小説『鳩の撃退法』で山田風太郎賞を受賞、2017年には『月の満ち欠け』(岩波書店)で直木賞を受賞しています。
 次に【書くインタビュー4】。この本のタイトルです。2009年から現在もつづいている佐藤正午さんの連載「ロングインタビュー 小説のつくりかた」を文庫オリジナルとしてまとめたシリーズの第4巻になります。
 4巻? といま思ったそこのあなた、心配しなくてだいじょうぶですよ。1~3をまったく読んでいなくても、この一冊、たのしめます。ちなみにインタビューは、聞き手からの質問も佐藤正午さんからの回答もすべてメールで、つまり文章に書いてやりとりされているんです。で、文字通り「書くインタビュー」というわけです。
 それから1~3をすでに読んでいただいているかたがた(とこちらはあえて複数形にしてみましたけど)、たいへんお待たせしました。『書くインタビュー4』が【発売になりました】。

 さて。ここから少し本書の内容にも触れていきましょう。
『書くインタビュー4』には、2017年1月から2018年12月までやりとりされた2年間のメール(計52通)を収録しています。
 前述のとおり、佐藤正午さんは2017年に直木賞を受賞しています。受賞作『月の満ち欠け』はこの年の4月に刊行されました。直木賞ノミネートが発表されたのが6月20日、選考会は7月19日に行われています。本書には各メールの受信日時も付してありますので、このあたりの日付にも注目してページをめくっていただけると、余計におもしろいかもしれません。

◎編集者コラム◎ 『書くインタビュー4』佐藤正午
カバー候補として、こういった写真も用意していました(撮影/bookwall)

 本書の編集中にゲラをくり返し読んでいると、当時の思い出も鮮明によみがえってきました。そういえば、東根ユミさん(ライター/本書の聞き手)と東京ステーションホテルのカフェでどらやきを食べたなぁ、という本書で触れられている内容はもちろん、書かれていないことまで。
 書かれていないことって、たとえばこの年の7月19日、佐世保での「待ち会」に出席するため、ほとんど徹夜明けみたいな状態で羽田空港にむかったよなぁとか、機内で『月の満ち欠け』の担当編集者と偶然鉢合わせたなぁとか、そういった細かいことです。ちなみにこの日の夜、佐藤正午さんと担当編集者数名で食事をした席で、お店の若女将から「めずらしかね、こんなにお揃いで」と記念に撮ってもらった写真があります。いまもスマホに残っています。若女将以外は、だれも笑っていません。みんなくたくたな顔してます。

 メールのやりとりが2018年に入ると、「書くインタビュー」シリーズ初の展開が訪れます。佐藤正午さんの〝お相手〟として作家の盛田隆二さんをゲストに迎えているんですよ。ゲストご登場までの詳しい経緯をここに書こうとすると、ただでさえ収拾がつかなっているこの「編集者コラム」が、さらに長くなりそうなんで、そのあたりは本書でおたのしみください(連載中の誌面をご覧になっていた盛田隆二さんから編集部に連絡が届いたときは、とにかくうれしかったなぁ)。
 もちろん、この作家どうしのやりとりもメールだけです。いわゆる対談とは異なります。メールとはいえ、作家どうしの、ガチの張りつめた文章のやりとりですからね。「小説の正体」ということばまで飛び出した3か月におよぶ濃密な往復メールは、まちがいなく本書の読みどころでしょう! 

 ほかにも、『月の満ち欠け』以降2021年現在いまだに上梓されていない佐藤正午さんの新作長編小説についても、ご本人の口から(というかメールに)ちらっと語られていたり、この担当編集者が編集の仕事をしているばかりではいられなくなった〝のっぴきならない転機〟が訪れたり……。
 メール一通一通は、それほど長くはありません。ちょっとした隙間時間とかでも、直木賞作家の名回答、名言・至言をたのしめます。ぜひ! 

──『書くインタビュー4』担当者より

書くインタビュー4

『書くインタビュー4』
佐藤正午

【『ムーンライト・シャドウ』ほか】映画化された吉本ばなな作品の幻想的な世界
前田啓介『辻政信の真実 失踪60年―伝説の作戦参謀の謎を追う』/自ら「軍人勅諭の化身」たらんとした、過剰な潔癖と独善の人生