ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第73回
漫画もデジタルで描く時代。
「くしゃみと思ったらゲロでした」
の恐怖はなくなったが、欠点もある。
現在、漫画を全てデジタルで描いている作家は珍しくないし、その多くがクリップスタジオというソフトをしている。
記録方法がアナログからデータに移行し、データなら半永久的に残るというイメージがあるかもしれないが、データを保存する媒体の寿命が意外と短く、媒体の長持ち度だけで言うとフィルムの方がまだ上ということもあるらしい。
ちなみに現在でも一番強固な記録媒体は「石板」だそうだ。
ただデータはコピーが容易なため「永遠にコピーを続ける」という、世界一アナログな手法により半永久的な保存が可能なのである。
ネットに流出したものは永遠に消えないというのも、例え大本を消しても、誰か保存していればそれをまた無限にコピーできてしまうため、それを全て消すというのはある意味人類抹殺より難しいからだ。
逆に言えば、保存やコピー、バックアップなどの対策を全くとっていなければ、データというのはむしろ記録界最弱、石板の親分にも「あいつはポテンシャルはあるのに、どうも末っ子気質が抜けてねえ」とボヤかれる存在なのである。
最近は、デフォルトでバックアップを取るようになっているソフトも多いが昔はそうではなかった。
よって3時間ほど作業したのち、突然パソコンがザ・ワールドし、その間「保存」を1回も押していなかったせいで、その3時間が一瞬で消えるという、少なくともスタンド使いが2人はいる現象が稀によく起こっていた。
紙の原稿でも「くしゃみと思ったらゲロでした」で数時間の苦労が水泡に帰すことはあるかもしれないが、それでも「一瞬で跡形もなくなる」ということはない。
「ゲロと思ったらブレスオブファイア」で消し炭になってしまうこともあるが、それは「漫画を描く時はドラゴンに変身しない」で防げることである。
ただ例外として「担当が電車に置き忘れる」ことで跡形もなくなることはある。つまり担当という生き物は邪龍以上の邪悪なのだ。
このように、データの事故った時の取り返しのつかなさ、無慈悲さはアナログの比ではない。
よって、そのような無情が起らぬようにデータの保存方法も日々変化している。