◉話題作、読んで観る?◉ 第7回「未来のミライ」
監督・脚本・原作:細田守 / オープニングテーマ・エンディングテーマ:山下達郎 / 声の出演:上白石萌歌 黒木華 星野源 麻生久美子 吉原光夫 宮崎美子 役所広司 福山雅治 / 配給:東宝
7月20日(金)より全国ロードショー
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http://mirai-no-mirai.jp/
©2018 スタジオ地図
劇場アニメ『おおかみこどもの雨と雪』や『バケモノの子』を大ヒットさせた細田守監督のオリジナル新作。4歳児のくんちゃん(声:上白石萌歌)は両親の愛情を生後間もない妹の未来ちゃんに奪われたことにがっかり。そんなくんちゃんが自宅の中庭で遊んでいると、中学生になった妹・ミライちゃん(声:黒木華)が現われ、くんちゃんを現代、過去、未来への冒険旅行へと連れ出していく。
実際に2人の子どもの育児に取り組む細田監督が、「夢の中で大きくなった妹に逢ったよ」という長男との会話から思いついた企画だ。まだ行動範囲が自宅とその周辺に限られている幼児が、想像の世界で思春期を迎えた妹や親に叱られて泣いていた頃の母親たちと出逢い、一緒に遊びながら日に日に成長を遂げていく過程を丁寧に積み上げている。
「取材という口実で、子どもたちと濃密な時間を過ごすことができた」と笑顔で語る細田監督の手によって、幼児ならではの体の柔らかさや感情の変化がとてもリアルに描かれている。子育ては大変な重労働だが、子どもと触れ合うことで大人も豊かな感受性や記憶を取り戻すことができるというポジティブなメッセージが、くんちゃんと家族とのやりとりの中に感じられる。
劇場公開に先行する形で発売された原作小説も細田監督自身が執筆したもので、映画を観ただけでは分かりにくい部分が補足説明されている。自転車に乗れずにいるくんちゃんの前に、乗り物にうまく乗るコツを教えてくれる青年(声:福山雅治)が現われる。父親の面影を宿すこの青年は、映画では「特攻の生き残り」としか触れられていないが、小説では戦時中に海軍の水上部隊に配属されていたことが記されている。水上部隊とは、ベニヤ板で作った小型ボートで米軍の戦艦に体当たりする特攻部隊のひとつだった。米軍の爆撃の中で青年は大怪我を負いながらも懸命に生き延びたことで、その後くんちゃんの家族が誕生することになる。
ブレイク作『時をかける少女』以降、夏をモチーフにした映画を細田監督は撮り続けているが、本作にも終戦という日本人にとって大切な夏の記憶が刻み付けられている。
(文/長野辰次)
〈「STORY BOX」2018年7月号掲載〉