◉話題作、読んで観る?◉ 第11回「来る」
監督・脚本:中島哲也/脚本:岩井秀人 門間宣裕/出演:岡田准一 黒木華 小松菜奈 松たか子 妻夫木聡 青木崇高 柴田理恵 太賀 志田愛珠 蜷川みほ 伊集院光 石田えり/配給:東宝
12月7日(金)より全国東宝系にてロードショー
©2018「来る」製作委員会
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澤村伊智の作家デビュー作『ぼぎわんが、来る』は、宮部みゆきら選考委員全員が絶賛し、2015年の「日本ホラー小説大賞」を受賞した話題作だ。一見幸せそうに見えるサラリーマン一家だが、章ごとに語り手が変わり、ぼぎわんと呼ばれる化け物に狙われるはめになった家族の意外な実像にゾッとさせられる。
正体不明の化け物と同じくらいに人間の心の闇が恐ろしく描かれたこのホラー小説を、岡田准一、黒木華、小松菜奈、松たか子、妻夫木聡ら豪華キャストを擁して映画化したのは、『嫌われ松子の一生』『告白』などのヒット作で知られる中島哲也監督。演劇キャリアの豊富な岩井秀人、中島監督の前作『渇き。』でもタッグを組んだ門間宣裕との共同脚本によって、大幅な脚色を加えている。
イクメンパパを自称する田原秀樹(妻夫木聡)は、妻の香奈(黒木華)、娘の知紗(志田愛珠)との毎日をブログにアップすることで忙しい。ある日、部屋に供えていた大量のお守りがすべて切り裂かれるという怪奇現象が発生。恐怖に怯える秀樹は、オカルトライターの野崎(岡田准一)と霊能力を持つキャバ嬢・真琴(小松菜奈)に救いを求める。だが、化け物は、真琴の力では太刀打ちできない存在だった。真琴の姉・琴子(松たか子)ら腕利きの霊能者たちが日本各地から田原家へと向かう。
ホラー映画に初挑戦となる中島監督は、化け物を呼び寄せてしまった田原家がそれぞれに抱える心の闇だけでなく、化け物に向き合う野崎や真琴の中に潜む闇も掘り下げていく。原作にあった「お化けとか、レイとかは、だいたいがスキマに入ってくるんです」という真琴の言葉をモチーフに、一家だけの問題ではなく空虚な現代社会全体へと物語を広げている。
CMディレクター出身の中島監督はブレイク作『下妻物語』以降、スタイリッシュな映像で高い人気を得てきたが、どの作品にも裏側にはスタイリッシュさだけを見ていては捉え切れない生きた人間の生々しい感情や浄化されることのない土着的なものが隠されていた。ポップで美しい映像の裏側でじっと息を潜めていたものが、観客の足元に忍び寄ってくる。そんな不気味さが『来る』にはある。
(文/長野辰次)
〈「STORY BOX」2018年12月号掲載〉