誰かを支えたくなる本
新年、今年は何と4社も神様に挨拶に出向いた。抱負は短く2文字で「利他」。育休から復帰して約2年が経過し実感を伴って気づいたのは、職場でも家庭でも私は多くに支えられて生きているということだ。私を助け支えてくれた人がいるように、私自身も誰かの支えになりたい。そう考えるきっかけになった本と、その過程で出合った本を今回はご紹介したい。
2016年に韓国で刊行され大ベストセラーとなったチョ・ナムジュの『82年生まれ、キム・ジヨン』。表紙は、顔に目鼻が無い代わりに荒地のような風景が広がっている女性の絵で印象的。主人公のキム・ジヨンは妊娠を機に勤めていた広告代理店を退職し、今はIT関連企業に勤める夫と子供の3人でソウル郊外に暮らしている。ある日を境に彼女は突然自分の母親や友人の人格が憑依したかのような振る舞いを見せ始める。キム・ジヨンの生まれた1982年から幼少時代、受験、就職、結婚、育児までの半生を回顧していく中で、性差による困難や女性嫌悪といった問題が淡々と描かれている。女性の「あるある」だらけで共感しかなかった。と同時に社会の慣習・構造に対して、本当にこれでいいの? と疑問を常に投げかけてくる作品だ。
かわって安田夏菜の『むこう岸』は日本が舞台だ。主人公は12歳の山之内和真と佐野樹希。一方は有名私立中学に入学するも落ちこぼれて公立中学に転入する挫折を味わった少年。もう一方は父親を交通事故で亡くし病床の母と幼い妹と共に生活保護を受けている少女。2人の交流を通して生活保護バッシング、格差社会といった日本の問題が描かれる。今の社会では強者と弱者が互いの属する世界を知ろうともせず生きている。そこに純粋でまっすぐな少年少女が風穴を開けるかのように立ち向かう姿に、重苦しい展開ながらも一筋の光を見たようだった。
『怒りの葡萄』で有名なスタインベックの『スタインベック短編集』に収録された「朝めし」はわずか5ページの作品だが一度読んだら忘れられない。ある男が早朝、日雇い労働者のキャンプを通りかかり、父子の朝食に招かれ食事を共にする風景を描いたものだが、凍てつく早朝の空気、朝日と夜明けの美しさ、焼いたベーコンの匂い、熱いコーヒーの苦みまでもが驚くほど鮮明に伝わってくる。朝食をとるだけの景色であるはずだがたまらなく幸福な気持ちに包まれる。