椹野道流の英国つれづれ 第2回

英国つれづれ第2回


◆イギリスで、3組めの祖父母に出会う話 ♯2

「ジーン・リーブさんですか? 私、去年、お宅にホームステイしていたKの友達で……ええと、大学で一緒なんです」

こんなに流暢ではないしどろもどろの英語で、とにかく自分の立場を説明しようとする私に、彼女……ジーンは、受話器の向こうでじっと耳を傾け、ときおり、優しく相づちを打ってくれました。

大丈夫、ちゃんと聞いてるし、ちゃんと理解できてるわよと言うように。

そして、どうにか私が用件を伝え終えると、彼女はこう言いました。 

『そう、K……K……うーん、とにかく、あなたは私たちへのプレゼントを持ってきてくれるのね? わかったわ。今日来るの? ええ、いいわよ。正午くらいにいらっしゃい』

会えるのを楽しみにしているわ、と言い添えて、彼女は通話を終えました。

重たい受話器を戻すなり、アポイントメントを取ることができた喜びと、見知らぬ町の、見知らぬ人の家を訪ねていくのだという緊張感で、心臓がバクバクし始めます。

Kから預かったプレゼントを忘れないようにしなくちゃ。何しろそれを届けることが、メインの目的なのだから。

でも、それだけじゃ駄目だな。

私からも一応、ご挨拶の品っていうか、手土産っていうか、そういうものを用意したほうがいいでしょう。

でも、手土産……?

イギリス人が選ぶ手土産って、どんなものだろう。

私は早くも考え込んでしまいました。

日本なら、ダントツでお菓子でしょう。

特に初めて訪問するお宅なら、日持ちのするお菓子を選べと、母に教わりました。

お菓子でいいのかな。何か他に、イギリス人が好む手土産ってあるのかな。

そもそも、手土産の習慣があるのかな。

公衆電話の前で長考に入った私が不審だったのでしょう、通り掛かったB&Bの女主人が、気さくに声をかけてくれました。


「椹野道流の英国つれづれ」アーカイヴ

椹野道流(ふしの・みちる)

兵庫県出身。1996年「人買奇談」で講談社の第3回ホワイトハート大賞エンタテインメント小説部門の佳作を受賞。1997年に発売された同作に始まる「奇談」シリーズ(講談社X文庫ホワイトハート)が人気となりロングシリーズに。一方で、法医学教室の監察医としての経験も生かし、「鬼籍通覧」シリーズ(講談社文庫)など監察医もののミステリも発表。ほかに「最後の晩ごはん」「ローウェル骨董店の事件簿」(角川文庫)、「時をかける眼鏡」(集英社オレンジ文庫)各シリーズなど著作多数。

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