週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド vol.99 広島蔦屋書店 江藤宏樹さん
- 書店員さん おすすめ本コラム
- イグアナの娘
- トミヤマユキコ
- 女子マンガに答えがある
- 小学館文庫
- 江藤宏樹
- 清田隆之
- 目利き書店員のブックガイド
- 自慢話でも武勇伝でもない「一般男性」の話から見えた生きづらさと男らしさのこと
- 萩尾望都
『女子マンガに答えがある
「らしさ」をはみだすヒロインたち』
トミヤマユキコ
中央公論新社
まずこのタイトルです。
ここに注目してみてください。『女子マンガに答えがある 「らしさ」をはみだすヒロインたち』というタイトルの、この「女子マンガ」というところです。
よく本屋さんで分けられているマンガのカテゴリーといえば「少年マンガ」「少女マンガ」「青年マンガ」「レディースコミック」といったくくりになっていることが多いですよね。でもそこには「女子マンガ」というカテゴリーは無いのです。
余談ですが、私はこのカテゴリー分けにもちょっと違和感があります。というのも、私は結構マンガが好きでよく読むのですが、欲しい漫画が少女漫画のコーナーにある場合、そこをおじさんがうろうろするのがちょっと恥ずかしかったりするんです。私のお店からでも、そんなカテゴリー分けは取っ払いたいなと思っているのですが、じゃあどんなふうに並べるといいのかというアイデアも今は無く……
話を戻して、じゃあ女子マンガって一体何だろうということですよね。それはこの本にちゃんと説明がありますので、引用してみます。
小田真琴さんが「恋に、そして性に絶望したかつての少女たち」を「女子」と呼び、「絶望を知ってしまった少女たちが、現実を肯定し直すため」に読むマンガを「女子マンガ」と名付けたのです。
これこそが「この本の中で語られる女子マンガ」の定義なのです。
大人の女性たちがリアルに悩んでいることといえば、仕事や恋愛、趣味や生き方のこと。永遠に答えの出ない、人生の問いにつまづいたとき、読むべきはこの「女子マンガ」!
この本で紹介されている数々の女子マンガたちの中に、今を生きる女性たちが直面する問題のヒントが、ほぼほぼ入っているというわけです。
そしてタイトルの「『らしさ』をはみ出す」については、こんな文章があります。
「ふつう」からはみ出してしまうような女の欲望や人生が肯定され、いい子じゃなくても、みんなと違っていても別にいいのだと思えること。女子マンガのくれるさまざまなメッセージは、どれもこの社会で女をやっていかなくちゃいけないつらさを大いに慰め、励ましてくれる。
現在は女性の生き方が、まだまだですが、昔に比べると多様になってはきています。
しかし、そのように選択肢が増えている今だからこそ、多様なロールモデルとなる女性がいて欲しいのですが、なかなか簡単には見つからないですよね。
そんな時です。女子マンガというジャンルにはさまざまな女性が登場します。
ロールモデルとすべき女子たちはここにいるのです。
この本の中では「おもしろい女」「ハマる女」「ただの女」というふうにさまざまな女性が登場します。もちろんマンガ的デフォルメもありますが、目指すべきロールモデルをこの中に見出す人は多くいるのではと思います。それによって少し生きやすくなる人も、解放される人も、同志を見つけて嬉しくなる人もいるでしょう。
女性の生き方の多様性が、ある程度は許容され、それはそれでいいことなのですが、それによって生き方の選択に迷いを感じてしまっている女性たちに、この本はひとつの指針を与えてくれるのではないでしょうか。
新しい多様な生き方というのは、性別を問わず、誰にでもあることです。自分らしい生き方のヒントを、女子マンガを読んで一緒に探していきませんか。
あわせて読みたい本
『自慢話でも武勇伝でもない「一般男性」の話から見えた生きづらさと男らしさのこと』
清田隆之
扶桑社
等身大の男性を描いたマンガ(=「男子マンガ」?)はというと、「孤独のグルメ」や「きのう何食べた?」が思い浮かびますが、まだまだ少ないように思えます。ということで、最近多く出ている男性による当事者研究的な本の中から、この本をおすすめします。男性が率直に語る言葉を聞いていると、男性も同じように複雑で多様であり、生きにくさも感じていることがわかってくるはずです。
おすすめの小学館文庫
『イグアナの娘』
萩尾望都
小学館文庫
『女子マンガに答えがある』でも取り上げられた、萩尾望都の傑作マンガです。TVドラマ化もされたので知っている人も多いのではないでしょうか。自分の産んだ娘がイグアナに見えてしまう母親と、その視線を内面化してしまって、本当に自分はイグアナなのだと思いこむほどになる娘の物語。母娘が理解し合える日は来るのか。母と娘の愛憎と葛藤を描く女子マンガ。