椹野道流の英国つれづれ 第14回
◆イギリスで、3組めの祖父母に出会う話 ♯14
土曜日、ジーンの家を辞すときにバス停の場所を聞いておいたので、帰りの道行きはだいぶスムーズでした。
乗るべきバスの番号はわかりましたし、行き帰りの時刻表はあらかじめメモしておきました。
ジーンの家までの所要時間も、ざっくり把握しています。
よーしよしよし。
たった1日で、ずいぶん進歩したじゃないの、私。
日曜日の朝、私はソワソワしつつも、前日よりはずっと自信に溢れていました。
ご家族の好みはわかりませんが、ジーンが甘い物好きだということはもうわかっています。
花の次に選ぶべき手土産は、そう、スイーツ!
「パティスリーに行くのもいいけれど、ちょっとした手土産なら、マークス&スペンサーはどう? ちょっと高級なスーパーマーケットで、自社ブランドの食品が、どれも品質がよくて美味しいのよ」
B&Bの女主人も、そんな有用なアドバイスをくれました。
そこで私は、まずはブライトンの中心部にあるマークス&スペンサーに趣き、綺麗な紙箱に詰まったショートブレッドを買いました。
以前、友人と短いロンドン旅行をしたとき、ここのショートブレッドがひときわ美味しかった記憶があったからです。
バスも、今度こそ求める路線を走るはずの便に乗り込みました。
うんうん、昨日見たばかりなので、窓の外の景色で、答え合わせもできます。
正解!
今回の運転手さんも無愛想ではありましたが、私が住所を見せて、近くに来たら教えてね、とお願いしたら、運転席から身を乗り出し、「ここだよ!」と下りるべきバス停を教えてくれました。
オーケー、把握。
これで、次回からは下りる場所にも迷うことはありません。
次回を期待するのは厚かましいですが、少なくとももう一度、帰国するときにご挨拶に伺うくらいのことはしたいので、お宅へのアクセス方法を記憶しておかねば。
バス停から、緩い坂道を数分歩けば、もはや懐かしくすら感じるリーブ家の可愛いコテージに辿り着きました。
腕時計を見れば、午前11時45分。
まさに、指定された「お昼前」です。よーしよし!
私は、軽い足取りで、通りからコテージに向かう階段を下りていきました。
外から見えるリビングの窓際には、誰もいないようです。
昨日と同じようにドアノッカーで玄関扉を鳴らし、しばらく待つと、水色のペンキで塗られた木製の扉が開きました。
兵庫県出身。1996年「人買奇談」で講談社の第3回ホワイトハート大賞エンタテインメント小説部門の佳作を受賞。1997年に発売された同作に始まる「奇談」シリーズ(講談社X文庫ホワイトハート)が人気となりロングシリーズに。一方で、法医学教室の監察医としての経験も生かし、「鬼籍通覧」シリーズ(講談社文庫)など監察医もののミステリも発表。ほかに「最後の晩ごはん」「ローウェル骨董店の事件簿」(角川文庫)、「時をかける眼鏡」(集英社オレンジ文庫)各シリーズなど著作多数。