◎編集者コラム◎ 『鐘を鳴らす子供たち』古内一絵

◎編集者コラム◎

『鐘を鳴らす子供たち』古内一絵


 スマホの検索欄に「鐘の鳴る丘」と入れてみる。

 すると、1947年~1950年までNHKラジオで放送されたラジオドラマ、と出てきて、詳しい説明。さらにその下には、主題歌の「とんがり帽子」の動画。

 聴いてみる。とっても昭和を感じさせる、懐かしいメロディと声。

 その時代のことは知らなくても、なぜかそこに途方もない希望と明るい未来を感じるのはなぜだろう。放送時間になったら、みんなでラジオの前に集まって、食い入るように耳を傾けてこのラジオドラマを老若男女大勢が心から楽しんでいたのだろう。その姿がクリアに見えるのだ。

 この小説は、そんな伝説のラジオドラマの舞台裏。突然、ラジオドラマに出演することになった数名の小学生達と、戦争への深い悔恨を抱える大人達が、共に明日を夢見て、目指して、葛藤する物語。まだまだ戦後の爪痕が生々しく残る状況で、明日を信じて生きていくしかない子供たちのピュアな姿は心に迫ってくる。大人達の悩みや葛藤もとてもリアルだ。

 その後高度経済成長期を経て、現在の日本は、我々は存在する。物質的にも経済的にも発展を遂げてきたけれど、まだまだ世の中から戦争はなくならない。

 現代を、そしてこれからを生きる我々にとって絶対に忘れてはいけない「なにか」。この小説はその大切なものに、気づかせてくれるのだ。

 この小説とリンクする、著者古内一絵氏の渾身の新刊『百年の子』。同時発売のこちらの作品には、戦後から現在までの人々の「生きる」姿と想いが詰まっている。是非、2つの作品でお楽しみください。どうぞよろしくお願い致します。

『鐘を鳴らす子供たち』写真
カバーイラストは、西淑さん。
原画が届いた時はとても温かみのある筆致に思わず笑顔になりました。

──『鐘を鳴らす子供たち』担当者より

鐘を鳴らす子供たち
『鐘を鳴らす子供たち』
古内一絵
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