採れたて本!【ライトノベル#09】
21世紀の犯罪全盛時代は、これに対抗する探偵全盛時代を意味し、探偵は時代の寵児となった。十五歳の少年・不実崎未咲もまた探偵を目指し、真理峰探偵学園の門を叩く。彼こそは〈犯罪王〉と呼ばれた稀代の犯罪者の孫だった……。
探偵達が〈国連探偵開発局〉なる国際機関に管理され、SからDの階梯に分けられ、あるいはそれぞれが推理方法から〈黒幕探偵〉〈衒学探偵〉なる異名で呼ばれ……紙城境介の『シャーロック+アカデミー』の設定を聞くと、ミステリファンは、清涼院流水の〈JDC〉シリーズを連想するかもしれない。
しかし、そうした外連味を纏う一方、本書は、その骨格において、あくまで本格探偵小説たろうとする。たとえばそれは冒頭の「読者への挑戦状」ならぬ「説明書」に記された
「事件の手掛かりは、
すべて太字で示される。」
という宣言にも現れている。
その視点から見ると、本書の奇天烈な設定の数々も、単に奇を衒ったのではなく、むしろ(ことによると本格推理というジャンル名さえ知らない)ライトノベル読者をミステリへと誘うために導き出された、論理的な帰結に思えてくる。
たとえば「異能者を育成する学園」「ランク・ポイント制度」「ワケありの主人公が入学早々優等生ヒロインと決闘」等々の設定や展開は、ライトノベル読者にとって慣れ親しんだものだ。
本書はこれを踏襲して間口を広げつつ、しかし決闘は〈第九則の選別裁判〉なる推理対決にて行われる。主人公やヒロインたちの属性が探偵で、作中に複数の探偵が存在するのなら、名人に見せ場を用意するために探偵たちを直接対決させる、というのは確かに理にかなっている。
加えて複数の探偵による推理勝負は、必然的に「探偵による解決の真実性はいかに担保されるのか」という新本格ファンにはお馴染みの難題へと到り、本格推理としての読み応えにも繋がっている。
ほかにも生まれの重圧を背負った十代の少年少女の青春小説的&ラブコメ的要素など魅力の多い作品だが、何より評者は、ライトノベルと本格ミステリのコードを厳守した上で、いかに双方の面白さを両立させるか、という難問への鮮やかな「解決編」として本書を楽しんだ。
綾辻行人から清涼院流水、そして西尾維新らを経て(加えてゲーム 『うみねこのなく頃に』や『ダンガンロンパ』など、小説外で書かれたミステリとも合流しつつ)ライトノベルへと至った新本格探偵小説。本作はその異端の流れの最先端と言うべき一冊だろう。
『シャーロック+アカデミー Logic.1 犯罪王の孫、名探偵を論破する』
紙城境介 イラスト=しらび
MF文庫J
〈「STORY BOX」2023年8月号掲載〉