『小説』野﨑まど/著▷「2025年本屋大賞」ノミネート作を担当編集者が全力PR

全ての読者におくる小説の宝物
小説を開き、自分の知らない世界で冒険をし、最後のページを閉じて現実に戻ってきてもその興奮が持続していたことはありませんか。私はたくさんの小説の中で膨大な探検をして成長しました。でも大人になった時、こんな質問をされたことがあります。「なんで小説を読むの?」と。もっと踏み込んで「小説を読む意味ってあるの?」と聞かれたこともあります。大体そういうときは雰囲気でごまかしてきました。ですが、ふと一人になったときになんだかよくわからないけれど悔しい思いに囚われるのでした。
私と同じく「小説を読む意味」を求められて困惑した経験のある方は野﨑まどさんの『小説』を手に取ってみてください。そこには「人はなぜ小説を読むのか」という問いへの答えが待っています。
5歳の時に『走れメロス』を読み、父親から褒められた日から内海集司の読書の日々は始まりました。12歳の時、一冊も小説を読んだことがないという同級生の外崎真と『竜馬がゆく』を通じて友達になります。そして、二人はある屋敷に潜入し、そこで髭モジャの小説家・髭先生と出会うことでさらに読書の楽しみを知ることとなります。
そんな黄金の時代を経て、二人は中学に進学し、高校を受験する中で、順調に年を重ねていきます。しかし、進学するにつれて読書に意味を求められるようになっていきます。感想文を書け、論文を書け。書くことが苦手な内海は、いつしか「読むだけじゃ駄目なのか?」と深く悩むようになります。たくさん悩み、たくさん苦しみ、たくさん泣いて、内海はどんな答えにたどり着くのでしょうか。
作者の野﨑まどさんは、「創作」「才能」「悪」「死」「労働」など大きなテーマを小説で書かれてきました。読者の想定を鮮やかに裏切り、思いもよらない答えを提示し、読み手に新たな景色を見せてくれる奇想の作家です。
『小説』にはその野﨑まどさんの魅力がいたるところにつまっています。タイトルが『小説』な小説ですよ? 最初は「検索性も悪いし、書店で書店員さんに迷惑がかかるから……」と改題をお願いしようとしたのですが、何度も読むうちに「いや、これは『小説』しかだめかあ」と決意が固まりました。
また、「小説って意味あるの?」という質問をされたら――私はこの本を手渡すと決めています。その意味がすべて書かれているのですから。

──講談社 文芸第二出版部 大曽根幸太